医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 歯周病・骨粗鬆症の新薬候補を発見、エリスロマイシンの非抗菌性誘導体-新潟大ほか

歯周病・骨粗鬆症の新薬候補を発見、エリスロマイシンの非抗菌性誘導体-新潟大ほか

読了時間:約 3分24秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年01月26日 AM09:00

骨の吸収・破壊に重要な「DEL-1」、老化に伴う減少を再誘導すれば骨再生できるか?

新潟大学は1月23日、マクロライド系抗菌薬とその非抗菌性誘導体EM-523が、骨の再生・回復に働くことを歯周病と骨粗鬆症の老齢動物モデル実験で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科高度口腔機能教育研究センター/研究統括機構の前川知樹研究教授、前田健康教授、同研究科微生物感染症学分野の寺尾豊教授、同研究科歯周診断・再建学分野の多部田康一教授、北里大学大村智記念研究所の砂塚敏明教授、廣瀬友靖教授、米国ペンシルベニア大学、ドイツドレスデン工科大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

超高齢社会を迎えた日本では、歯周病罹患患者が約400万人、骨粗鬆症患者数は1280万人に達し、歯の喪失および骨粗鬆症によるフレイルが問題となってきている。骨吸収抑制薬剤はあるものの、老齢期に有効な骨再生薬剤や治療法はほとんどない。さらに老齢期では期待された骨や組織の再生効果が認められないことが多いのが現状だ。老齢期の骨に関連する疾患は、老化による骨や周囲組織の再生能の低下が原因の一つであると考えられる。

研究グループは先行研究により、骨の吸収や破壊に「DEL-1」が重要な役割を果たしていることを報告してきた。DEL-1は、炎症により減少し、骨吸収(骨が減ること)が認められるが、マクロライド系抗菌薬は減少したDEL-1を再誘導し、骨吸収を制御することを明らかにした。さらにDEL-1は骨の吸収抑制だけでなく、骨の再生にも重要であることや、さまざまな細胞に分化する幹細胞自身もDEL-1を発現し、新しい細胞を作り出す役割を持つことも示してきた。研究グループは、このような重要な役割を果たすDEL-1が、老化に伴い減少することで骨の再生能力が低下することに着目し、それを再誘導し骨が再生できないかと考え、今回の研究を進めた。

マクロライド系抗菌薬、老化で減少のDEL-1を誘導・上昇させ骨再生を誘導

今回の研究では、マウスの骨再生が観察できる歯周炎モデルを使用した。同モデルは10日間、歯の周りに糸を巻くことで歯周炎を誘導し歯槽骨吸収が認められるが、糸を除去した後に5日間経過すると骨が再生する。若いマウス(2か月齢)では十分な骨の再生が認められるが、12か月齢のマウスではほとんど骨再生が認められない。これは老齢のヒトでは十分な骨再生が認められないことと同様だ。しかし、老齢マウスの骨再生期の歯茎にDEL-1を直接投与することで、若齢と同じような骨の再生が認められた。つまり、DEL-1は老化したマウスの骨再生に重要な役割を果たしていることを明らかにした。

続いて、マクロライド系抗菌薬が歯槽骨の再生に重要なDEL-1を誘導するかを解析。18か月齢の老齢マウスでは、PDLと呼ばれる歯の周りの靭帯である歯根膜中において、α-SMA陽性で示される骨に変化する間葉系幹細胞やDEL-1が極めて少なくなっている。しかし、マクロライド系抗菌薬の投与により、DEL-1が誘導されていることを確認した。それと同時に、間葉系幹細胞も増加していることが確認された。つまり、マクロライド系抗菌薬が、老化で減少した歯根膜中のDEL-1を上昇させることで、骨の再生を誘導していることが予想された。

DEL-1誘導効果を高め抗菌作用除去のエリスロマイシン誘導体EM-523、歯槽骨再生促進

次に、マクロライド系抗菌薬の一つ、エリスロマイシンを8週間投与した老齢マウスでは、全身の骨がどのように変化しているかを調べた。その結果、腓骨の骨量が増加を示し、この治療法が骨粗鬆症などの全身の骨量減少疾患に効果を示す可能性が示唆された。

一方、マクロライド系抗菌薬には抗菌作用があり、長期投与による耐性菌の出現が危惧される。そこで抗菌作用を除去し、さらにDEL-1誘導効果を高めたエリスロマイシン誘導体であるEM-523を使用。EM-523を全身投与することで、老齢マウスにおいてマクロライド系抗菌薬のエリスロマイシンより数倍強力にDEL-1を回復させることに成功した。それにより、歯槽骨の再生が促進されることを示した。また、歯根膜由来培養細胞においても通常のマクロライドの100分の1の濃度で骨様組織を誘導することを見出した。

薬剤の骨再生、DEL-1依存的に機能

これらのマクロライド抗菌薬やEM-523は、年齢をマッチさせたDEL-1欠損マウスでは骨再生を誘導できなかった。つまり、これら薬剤の骨再生に関しては、DEL-1依存的に機能していることも明らかになった。今回の研究により、老齢期での骨再生におけるマクロライド-DEL-1の新機軸が示された。

・骨粗鬆症治療薬など、ヒトへの薬剤展開に期待

今回の研究により、マクロライド系抗菌薬の新作用としての老齢個体でのDEL-1の誘導と骨再生効果が示された。さらに抗菌作用を除去し、効果を増強したEM-523に、より強い骨再生効果があることも同時に示した。これら薬剤は、老齢マウスのみならず老齢サルの骨においても骨再生効果がみられていることから、今後のヒトへの薬剤展開が期待される。そして、歯周病による局所的な骨欠損に対する骨再生療法への展開が期待されるとともに、骨粗鬆症治療薬としての応用と抗生物質の適応拡大へのエビデンス提供となるとしている。今後、骨再生効果と安全性をより高めた薬剤の開発による骨関連性疾患への治療薬につなげていく、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • RET阻害薬の肺がん治療抵抗性、HER阻害薬併用で克服できる可能性-京都府医大ほか
  • MRI・CT内で安全に針の姿勢変更等が可能な球状歯車型空圧モータを開発-名大ほか
  • 統合失調症の陰性症状に「間欠的シータバースト刺激」が有用と判明-藤田医科大ほか
  • 視覚障害のある受験者、試験方法の合理的配慮に課題-筑波大
  • 特定保健指導を受けた勤労者の「運動習慣獲得」に影響する要因をAIで解明-筑波大ほか