早期の段階での医療費増加に関しては不明だった
広島大学は1月24日、就労世代8万人の大規模健康医療データを分析した結果、5.3%の早期慢性腎臓病を同定し、尿タンパクが1人あたり年間2.7万円、腎機能低下が9.1万円、尿タンパクと腎機能低下が18.7万円の医療費増加と関連していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学の迫井直深氏、京都大学医学研究科の福間真悟准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。
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慢性腎臓病は世界で5~15%の人がもつ頻度の高い慢性疾患である。早期は無症状であることが多く、健診で測定される検査所見によって定義される。推定糸球体濾過量が60mL/min/1.73m2を下回ると腎機能低下があるとされ、腎機能低下、尿タンパク陽性(試験紙法で1+以上)のいずれかが存在すると慢性腎臓病が疑われる。慢性腎臓病が存在すると心筋梗塞や脳卒中などの合併症が増え、慢性腎臓病が進行すると透析治療や移植治療が必要となる。慢性腎臓病は、早期の段階から、さまざまな理由で医療の必要性が増加する可能性がある。しかし、早期慢性腎臓病において、どのような所見がある場合に、どの程度の医療費増加が認められるかについては検討されていなかった。
尿タンパクで2.7万円、腎機能低下9.1万円、尿タンパクと腎機能低下で18.7万円増加
研究グループは今回、就労世代8万人の健康医療データベースを分析した。保険者との共同研究により、健診データとレセプトデータを紐づけることで、早期慢性腎臓病に対する検討が可能だった。
その結果、5.3%の早期慢性腎臓病(軽度の腎機能低下や尿タンパクの陽性)が同定された。また、早期慢性腎臓病の所見ごとに見てみると、慢性腎臓病がない場合と比較して、尿タンパクは2.7万円、腎機能低下は9.1万円、尿タンパクと腎機能低下は18.7万円(1人当たり年間で)の医療費増加と関連していた。さらに、医療費増加は5年間にわたって継続していることもわかった。
受療行動を促す行動変容介入など、医療費増を止めるアクションを
日本では、高齢化が進行し、人口が減少する中で、医療費の増加は社会にとって大きな課題である。健診で多く発見される早期の慢性腎臓病の段階から医療費が増加していることから、合併症や重症化の予防を介して、医療費負担の増加を止めるアクションが求められる。
「大規模な健康医療データを活用し、慢性腎臓病のリスクが高い集団に対して、行動経済学のナッジを活用した適切な受療行動を促す行動変容介入にも取り組んでいる。将来にわたって健康を支える仕組みを持続可能にするために、大規模健康医療データを活用した研究とその成果の実装が強く求められており、今後もチャレンジを続けていきたい」と、研究グループは述べている。
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