抗好中球細胞質抗体陽性の血管炎、末期腎不全に至る予測手段は国内未検討だった
山梨大学は1月19日、国の指定難病であるANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)の診断時の腎病理所見から将来の腎機能を予測するスコアを開発したと発表した。この研究は、同大医学域内科学講座リウマチ膠原病内科学教室の中込大樹准教授、武田伶医師(同大学院生)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International Reports」に掲載されている。
ANCA関連血管炎は免疫の異常によって全身の毛細血管や小動脈に炎症をおこす自己免疫疾患で、厚生労働省の定める指定難病である。特に顕微鏡的多発血管炎は日本人の高齢者に多く、日本では高齢化社会を迎えて患者数が多くなっている。抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasm antibody:ANCA)が陽性となり血管炎を起こすことから、ANCA関連血管炎と呼ばれている。症状は炎症が起こった血管により、皮膚、肺、腎、関節、脳神経とさまざまである。生命に関わる臓器としては腎臓・肺があり、それぞれ血管炎により糸球体腎炎・間質性肺炎が起こる。無治療の場合は呼吸不全や腎不全に至る可能性が高くなる。ANCA関連血管炎においては、早期診断・早期治療が重要な疾患である。治療は、副腎皮質ステロイドと免疫抑制剤の併用で80%程度の人が寛解を達成できる。しかしながら、強力な治療法のため副作用も多く、半分の人は治療による感染症などの副作用で死亡するという報告もある。
腎病理所見より将来的に末期腎不全に至るか否かを推測する手段は欧米でいくつか試みられてきた。今回、日本人の集団では初の試みであり、腎病理所見より末期腎不全の可能性を推測できるか検討した。
4つの糸球体病変が均等に関与、これらの割合の合算が5年後末期腎不全の指標に
今回の研究は、同大を主とした国内6施設において、新規に発症したANCA関連血管炎221例の腎病理所見を検討した。腎病理所見と発症から5年後の腎予後(末期腎不全に至るか否か)の関連を調べた。統計解析の結果より、糸球体病変のうち細胞性半月体、線維細胞性半月体、線維性半月体、硬化糸球体がほぼ均等に関与していることがわかり、全糸球体におけるこれら4つの%の合算が43%以上であった場合、5年後に末期腎不全に至ることがわかった。また、間質性腎炎と細胞性半月体は治療開始から6か月後の腎機能が改善する要素として抽出でき、間質性腎炎と細胞性半月体は不可逆的な病変でもあることがわかった。また、腎病理における血管炎所見の有無は5年後の死亡率と関係していることがわかった。
治療介入の強度決定、副作用回避や不可逆的ダメージ減少につながる可能性
日本人の大きなデータでの解析は初めての報告となる。診断時の腎病理所見より末期腎不全の可能性を推測することにより、治療介入の強度を決めることができる。すなわち、腎病理所見の結果で、治療を軽くする、強くするなどの決定が可能となる。「治療を軽くして不必要な副作用を回避する、治療を強化して不可逆的なダメージを減少させることが可能となるかもしれない」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース