ネフリン協調で足細胞機能を維持のGM3、タンパク尿や腎機能への治療効果は?
北里大学は1月18日、腎臓の糸球体足細胞膜に発現するシアル酸含有糖脂質(ガングリオシド)GM3の発現量の調節が、ネフローゼ症候群の一種である巣状分節性糸球体硬化症(Focal segmental glomerular sclerosis:FSGS)に伴うタンパク尿や糸球体障害の治療に有効である可能性を見出したと発表した。この研究は、同大医学部腎臓内科学の川島永子助教、内藤正吉講師ら、麻布大学獣医学部、産業技術総合研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
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慢性腎臓病は成人の8人中1人に存在すると推定されている。慢性腎臓病患者の中でも、タンパク尿の量が多いほど、透析療法や腎移植といった治療が必要となる危険性が高くなることが知られている。腎臓は、生物が生きていく過程で生じた老廃物を体外に排出する役割を担っており、その際、身体に必要なタンパク質が体外に漏れ出ないように、スリット膜がある。タンパク尿は、スリット膜が破綻することで、血液中のタンパク質が尿中に漏れ出る状態のことを言い、腎臓病を悪化させるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などの発症率を約3倍以上高めるリスクになることもわかっている。
研究グループは先行研究により、糖脂質GM3が腎足細胞間に形成されるスリット膜を構成するネフリンと協調しながら足細胞の機能を維持していることを明らかにしている。しかし、GM3のタンパク尿や腎機能に対する治療的効果は不明だった。
GM3はネフリン以外の細胞膜タンパク質とも相互作用し、総合的に障害進行抑制と示唆
今回の研究では、ネフリンに対する抗体で惹起されるネフローゼ症候群モデルマウスに対して、抗てんかん薬などで用いられるバルプロ酸を投与し、GM3合成酵素遺伝子の活性化を亢進させた。その結果、足細胞膜に発現するGM3が同細胞膜上のネフリンの障害の程度を軽微に留めることで、タンパク尿および腎機能の遷延・悪化を抑制する効果があることを明らかにした。また、前述の処理により、病態下においても足細胞と糸球体基底膜を結合しているインテグリンβ1の発現維持を介して足細胞数の減少も阻止した。
これらのことから、足細胞膜に発現するGM3は、同細胞膜に発現しスリット膜を形成するネフリンだけでなく、他の細胞膜タンパク質とも相互作用し、総合的に足細胞の障害の進行を抑制していることが示唆された。
バルプロ酸はGM3合成酵素遺伝子活性化でタンパク尿・腎機能悪化に効果、モデルマウスで
その他、最大の透析導入の原因疾患である糖尿病性腎症に対するモデルマウスを用いた試験を実施。その結果、バルプロ酸によるGM3合成酵素遺伝子の活性化を介してタンパク尿や腎機能悪化に対する治療効果を見出していることや、糖尿病性腎症患者の糸球体足細胞におけるGM3の発現の低下を確認した。
GM3発現を介したタンパクろ過バリアの安定化、タンパク尿の新規治療法開発に期待
今回の研究成果から、GM3を標的とした新たな薬剤治療がさまざまなタンパク尿を伴う腎疾患に応用可能であることが期待される。糖脂質GM3の発現を介したタンパクろ過バリアの安定化は、タンパク尿の新規治療法開発の戦略として非常に重要であると考えられるという。バルプロ酸等を新しいタンパク尿治療薬として臨床応用するために、創薬の観点からさらなる研究活動を継続している、と研究グループは述べている。
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・北里研究所 プレスリリース