医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > アルドステロン産生腺腫、多様な分化度の細胞から成る不均一な集団と判明-東京医歯大

アルドステロン産生腺腫、多様な分化度の細胞から成る不均一な集団と判明-東京医歯大

読了時間:約 3分34秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年01月22日 AM09:20

APA症例ごとのホルモン合成能の違い、腫瘍組織の遺伝子変異の違いだけでは説明不可能

東京医科歯科大学は1月18日、二次性高血圧症の重要な原因疾患であるアルドステロン産生腺腫の組織を単一核レベルで初めて解析し、腫瘍内不均一性があることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝学分野の村上正憲助教、原一成大学院生、池田賢司准教授、山田哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)は二次性高血圧・糖尿病の原因疾患として有名であり、副腎皮質ホルモンの一種であるアルドステロンの過剰分泌を原因とした内分泌疾患である。PAは本態性高血圧症と比較して心血管合併症発症のリスクが高いため、早期の診断・治療が必要と考えられている。PAの約3割はアルドステロン産生腺腫()と呼ばれる副腎皮質細胞由来の腫瘍が原因で、病勢が強い一方で外科治療による緩解が期待できる。

研究グループは、APA発症メカニズムを解明することが本疾患の早期診断、新規治療法の開発につながると考え、病態解析を継続して行ってきた。APAの腫瘍組織にはカリウムチャネルをコードするKCNJ5遺伝子をはじめとした特異的な遺伝子変異を認め、アルドステロン過剰分泌の原因の一つであると考えられている。研究グループは、APAが腫瘍組織の有する体細胞変異ごとに遺伝子発現やDNAメチル化などの分子生物学的特徴が大きく変わることを明らかにしてきた。一方で、APAの遺伝子変異の頻度としては最多を占めるKCNJ5遺伝子変異を有するAPAのみに注目した場合でも、症例ごとにアルドステロン合成酵素(CYP11B2)の発現パターンに差があることがわかっており、体細胞変異の種類では症例ごとの不均一性が説明できない状況があった。

APAを対象に単一細胞の遺伝子発現解析を実施

近年、組織レベルではなく単一細胞レベルでの詳細な遺伝子発現解析を可能にするシングルセル/核解析(single-cell/nucleus RNA-sequence)が可能になり、悪性腫瘍をはじめとした疾患の病態解析に利用されている。ホルモン合成能を特徴とする内分泌疾患の解析にも有用と考えられるが、報告例は少数にとどまる。今回、研究グループはAPAを対象にしたsingle-nucleus RNA-sequence(snRNA-seq)に初めて挑戦し、腫瘍内不均一性の評価を通じて症例ごとの特徴を明らかにすることを目指した。

核集団は13クラスターに分かれ、APA症例ごとに別のクラスターが優位に

当院で入院歴のあるPA症例のうち、副腎腫瘍摘出術が施行されたKCNJ5遺伝子変異を有するAPAの3症例と、ホルモン分泌能のない非機能性腺腫(NFA)2症例を解析対象とした。各腫瘍組織から核抽出を行い、合計で2万795個の単一核を対象にsnRNA-seqを行った。核集団は合計で13個のクラスターに分けることができ、APA3症例ごとに異なったクラスターが優位になることがわかった。またAPA3症例のうち2症例はNFAと共通する副腎皮質由来細胞のクラスターを有しており、これらのクラスターではCYP11B2遺伝子発現量が低く、アルドステロン合成能が低い細胞集団の特徴を反映していると考えられた。

APA組織内の細胞分化、CYP11B2遺伝子発現増加に沿って2方向に分岐

さらに核集団のデータを元に、擬似時系列解析を行うことでAPA組織内の細胞の分化過程を推定した。アルドステロン合成を特徴とするAPAの臨床的特徴に合致して、CYP11B2遺伝子の発現量の増加に沿った分化過程が描出された。この分化過程では、アルドステロン合成の上流で働くステロイド合成酵素をコードするHSD3B2遺伝子やCYP21A2遺伝子の発現上昇も伴っていることから、一細胞レベルでアルドステロン合成が成立する方向性が示された。ステロイド合成酵素以外では、副腎皮質細胞の増殖に関与するWNTシグナル経路のCTNNB1遺伝子の発現上昇も確かめられた。さらに擬似時系列解析ではAPA腫瘍内に想定される分化過程が2方向(fate1、fate2)に分岐することが示されており、fate1ではリボソームや神経変性疾患に関連のある遺伝子の発現上昇が、fate2では解糖系に関連する遺伝子の発現上昇が特徴的だった。

APA腫瘍内、多彩な分化レベルの細胞で構成された不均一な集団

単一核レベルでの評価を行うことで、APA腫瘍内が多彩な分化レベルの細胞で構成された不均一な集団であることがわかった。また同一の体細胞変異(KCNJ5遺伝子変異)を有するAPAを比較したにも関わらず、遺伝子発現パターンに相違のある分化過程が推定された。APA細胞としてアルドステロン合成能が上昇している点は共通しているが、発症に至る分化過程には複数の経路が存在する可能性を示すことができた。

発症に体細胞変異以外の要素が影響することを示唆、予防・治療法の開発につながる可能性

今回の研究成果は、不明点の多いAPAの発症メカニズム解明に向け、新たな知見を与えた。APAとNFAが類似した細胞集団を有する場合があるということは、副腎皮質細胞が増殖して腺腫を形成するメカニズムについては両者に共通している可能性がある。また、同一の体細胞変異を有する場合でも症例ごとに分化過程に差があるということは、体細胞変異以外の要素がAPA発症メカニズムに影響を与えていることを示唆する。「今後、本研究で推定された腫瘍内の分化過程の証明などを行い、研究を発展させることで、二次性糖尿病の原因の一つである原発性アルドステロン症の病態解明および予防・治療法の開発などにつながる可能性がある」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大