ノンアルコール飲料が飲酒量に及ぼす影響、男女で違いはあるのか?
筑波大学は1月15日、ノンアルコール飲料提供による飲酒量減少プロセスに性差があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の吉本尚准教授、同大体育系の土橋祥平助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Public Health」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
世界保健機関(WHO)などの報告では、過度の飲酒はアルコール依存症などの健康問題を引き起こすだけでなく、家庭内暴力や飲酒運転による交通事故など、他の深刻な問題にもつながることが指摘されており、国連が掲げるSDGsのうち14カテゴリにも関連している。日本では、男性で40g/日以上、女性で20g/日以上の純アルコール摂取量(以下、飲酒量)を、生活習慣病のリスクを高める飲酒量と定義している。
これまで世界で議論されてきた対策の一つに、アルコールテイスト飲料、いわゆるノンアルコール飲料の利用がある。研究グループは以前、アルコール依存症の患者などを除いた20歳以上の成人対象に、ノンアルコール飲料を提供する介入群と対照群の2つの群に無作為に分けて、飲酒量の推移を観察するランダム化比較試験を実施した。その結果、介入開始前からの飲酒量減少率は介入群が対照群よりも有意に上回っており、ノンアルコール飲料の提供が飲酒量を減らす対策として有効であることが科学的に実証された。
一方、これまで数多くの減酒介入の有効性が検証されているものの、効果の有効性には個人差が大きく認められることも指摘されており、性差もその要因の一つとされている。そこで今回、ノンアルコール飲料の提供が飲酒量に及ぼす影響について、上記のランダム化比較試験の二次解析として、性差の観点から検討を行った。
飲酒の制限はせず、4週に1回・計3回ノンアルコール飲料を無料で提供
研究は、アルコール依存症の患者、妊娠中や授乳中の人、過去に肝臓の病気と言われた人を除いた20歳以上で、週に4回以上飲酒し、その日の飲酒量が男性で純アルコール40g以上、女性で同20g以上、ノンアルコール飲料の使用が月1回以下の参加者を募集し、計123人(女性69人、男性54人)の参加者を対象に実施した。
参加者は、ノンアルコール飲料を提供する介入群と対照群の2つの群に無作為に分けられ、介入群には、12週間にわたって、4週間に1回(計3回)、ノンアルコール飲料を無料で提供した。両群とも、アルコール飲料の入手および飲酒に関しては特に制限をすることはなく、自由に日々を過ごすよう指示し、介入から20週間、毎日、アルコール飲料とノンアルコール飲料の摂取量を記録した。その後、性別ごとの対照群と介入群の飲酒量や飲酒頻度の比較、および、研究期間中の飲酒量の平均変化率(介入期間中と8週間の後観察中の飲酒量の介入開始前からの変化率)の男女間比較を行った。
男性は飲酒日あたりの「飲酒量」が、女性は「飲酒頻度」が減少
その結果、介入開始前からの飲酒量減少率は、男女ともに介入群が対照群を上回っていた。また、介入開始前から研究期間中の飲酒量の平均変化率については、介入群は対照群よりも有意に低値を示したが、介入による飲酒量減少率に性差は認められなかった。一方で、飲酒頻度と飲酒日に限った飲酒量の推移に注目すると、飲酒頻度は主に女性で有意な減少が観察され、介入群の男性よりも女性の方が、有意に飲酒量が減少していた。飲酒日の飲酒量については、男性のみ介入による有意な減少が認められたという。
これらの結果から、ノンアルコール飲料の提供は男女問わず飲酒量の減少に有効な対策であることが示されたが、そのプロセスが男女で異なることが明らかとなった。
減少プロセスに性差はあるがノンアルコール飲料は男女問わず飲酒量低減につながる
今回の研究により、ノンアルコール飲料が男女問わず飲酒量低減のきっかけになる可能性があることが示唆された。同時に、ノンアルコール飲料提供による飲酒量減少のプロセスに性差が認められたことは、いまだ解明されていない点が多く存在する飲酒行動の性差を紐解き、性差を踏まえた過剰飲酒対策を推進する上で重要な知見となることが期待される。
「今後は、アルコール摂取量低減に対するノンアルコール飲料の利用効果を高める方略について検討するとともに、その効果がどの程度持続するのかを追加検証していく予定だ。また、今回対象に含まれなかった20歳未満の人やアルコール依存症の人への影響についても考慮する必要がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL