アレルギー性の炎症制御における末梢感覚神経のJAK1の役割は?
国立成育医療研究センターは1月16日、肺の末梢感覚神経のJAK1が神経ペプチドのCGRPβを介して2型自然リンパ球(ILC2)の働きを抑えることで、喘息様気道炎症を軽減させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター免疫アレルギー・感染研究部の溜雅人研究員、松本健治部長、森田英明室長と米国マウントサイナイ医科大学のBrian S. Kim教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell」に掲載されている。
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アレルギー性疾患の病態形成には、活性化した免疫細胞から放出されるIL-4/5/13などのサイトカインが関与することが知られている。これらのサイトカインが機能を発揮する際には、個々の受容体の下流に位置するJAK1が中心的な役割を担うと考えられており、アトピー性皮膚炎では新たな治療標的となっている。近年になり、末梢感覚神経にもこれらサイトカイン受容体やJAK1が発現していることがわかってきた。しかし、アレルギー性の炎症制御における末梢感覚神経のJAK1の役割は不明な点が残されていることから、喘息様気道炎症における末梢感覚神経とJAK1の役割を明らかにすることを目的にした研究が行われた。
JAK1過剰のマウスでは喘息様気道炎症が軽減
JAK1が過剰に働くマウスを作成し、アレルギー様炎症の自然発症の有無を調べた。すると、マウスの皮膚ではアトピー性皮膚炎様の炎症が生後早期から自然発症したのに対し、肺では成人年齢相当でも炎症を認めなかった。そこで、肺ではJAK1が免疫細胞の働きを抑えるように働くメカニズムが存在するのではないかと考え、非免疫細胞でJAK1が過剰に働くマウスを作成した。そのマウスに喘息様気道炎症を起こして観察したところ、通常のマウスに比べて炎症が軽減することを見出した。
次に、末梢感覚神経でのみJAK1が働かないマウスを作成して喘息様気道炎症を起こしたところ、通常のマウスに比べて炎症が悪化した。さらに、先のマウスとは対照的に、末梢感覚神経でのみJAK1が過剰に働くマウスを作成し喘息様気道炎症を起こしたところ、炎症が軽減されることを見出した。これらの結果から、肺の末梢感覚神経におけるJAK1がアレルギー性の炎症を軽減させるように働くことがわかった。
JAK1がCGRPβを介してILC2の働きを抑え、喘息様気道炎症を軽減
さらに、マウスの肺の末梢感覚神経において免疫細胞の活動を制御する可能性がある神経ペプチドの遺伝子発現レベルを調べた。すると、肺の末梢感覚神経でJAK1が過剰に働くマウスでは、神経ペプチドのCGRPβが気道中で有意に増加しており、CGRPβがJAK1によって制御されていることがわかった。さらに、このCGRPβが肺のアレルギー性炎症に関わる免疫細胞(ILC2)の働きを抑制していることを確認し、CGRPβを吸入させることで喘息様気道炎症を軽減させることを見出した。 これらの結果から、研究グループは、肺の末梢感覚神経におけるJAK1は、CGRPβを介してILC2の機能を抑制し、喘息様気道炎症を軽減させるように働くと結論づけた。
組織によって異なるJAKの機能を標的とした新規治療開発に期待
今回、肺の末梢感覚神経のJAK1がアレルギー性の炎症を軽減させることがわかったことにより、末梢感覚神経におけるJAK1の役割は臓器によって異なることが明らかになった。「これは、組織によって異なるJAKの機能を標的とした治療が炎症の制御に効果的である可能性を示唆しており、気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患の将来的な予防や新規治療の開発に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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