感染初期の体内ウイルス量と経過は相関なく、重症化予測は困難だった
京都大学は1月16日、SARS-CoV-2(COVID-19)に感染した患者の血清を用いて、軽症のまま回復した人と重症化した人を感染初期に比較し、重症化リスクを予測するためのバイオマーカーとなる代謝産物を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科がん免疫総合研究センターマルチオミクスプラットフォームの前田黎技術補佐員、関夏実研究員、杉浦悠毅特定准教授(研究開始時:慶應義塾大学医学部医化学教室専任講師)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
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SARS-CoV-2によるCOVID-19が2019年末に発生して以降、数年に渡って世界中に広がりパンデミックになった。COVID-19の症状は、その種類や症状の重さによっていくつかのレベルに分類される。無症状と呼ばれるような目立った症状の出ない人がいる一方で、一般的な風邪に近い軽症の人、肺炎を起こして酸素吸入を必要とする中等症の人、さらにそこから急速に肺炎が悪化することで重症化し死亡する人もいる。中には、感染初期には軽症だと思われたものの、急激に肺炎が進み致命的な転帰をたどる人もいる。
感染初期の段階で、重症化する可能性が高いかどうかを予測することができれば、経過の観察などの治療の方針に役立つと考えられる。しかし、感染初期段階の体内に含まれるウイルス量と重症化のレベルは、必ずしも一致しないことから、感染初期段階で重症化を予測することはこれまで難しいと考えられてきた。
血中代謝産物に着目、感染初期にアミノ酸異化物増加レベルと重症化の関連を発見
この研究では、COVID-19感染初期の段階で重症化しうるか判断するためのバイオマーカーの探索として、血中(血清)の代謝産物に着目した。血液検査は臨床の現場で非常によく使われており、また代謝産物を測定する際に必要な血清量はわずかであることから、血清を用いてのバイオマーカーの探索を試みた。慶應義塾大学病院に来院した感染初期の段階(症状が出て5日以内)の患者83人の血清を用いて、メタボローム解析を行った。メタボローム解析では、質量分析装置を用いて、アミノ酸やヌクレオチドといった小さな分子を広く解析することが可能である。患者の血清からメタボローム解析を行った結果、感染初期において、de-novoヌクレオチド合成経路に関するアミノ酸異化物の増加のレベルと、その後の重症化レベルに相関があることが明らかになった。
後に重症化するマウス肺、感染初期に気道と血管組織細胞が異常増殖
加えて、COVID-19では重症化に伴って肺炎が生じるため、マウスを用いて肺ではどのような異常が起こっているのかを可視化した。具体的には、SARS-CoV-2-MA10(COVID-19の株の一つ)に感染させたマウスと、同じく肺炎を起こす感染症として知られるインフルエンザウイルスに感染させたマウスを用いて、肺の構造や代謝産物を可視化した。
マウスの肺で構造や代謝産物を可視化した結果、後に重症化するマウスの肺では感染初期の段階で気道および血管組織細胞が異常に増殖することがわかった。これは感染初期段階において、肺組織のリモデリングが生じることで、全身の代謝に影響を及ぼすことを示唆している。
ヒトの血清サンプルから得られたメタボローム解析の結果と、マウスの肺を可視化した結果から、感染初期段階でのアミノ酸異化物は、後の重症化を予測するのに有効な因子であると結論づけた。
症状が出て5日以内、血液検査で得られる血清量で予測可能
これまでにも重症化のリスクを予測する研究は数多くなされてきたが、コホート研究では年齢や、持病の有無などさまざまな要因が複雑に関与することから、特定の物質に異常が見られてもそれがCOVID-19によるものなのか、その他の要因が考えられるのかを特定することは非常に困難だった。
今回、持病の有無やさまざまな年代を含め大規模なコホート研究を行うことで、多くの人に適用できるバイオマーカーの発見に成功した。「症状が出て5日以内という感染してからごく初期の段階で、かつ一般的に行われている血液検査で得られる血清量で予測が可能であることから、ハイリスクな人を早いタイミングでスクリーニングし、治療介入できることが期待される」と、研究グループは述べている。
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