IBSセルフヘルプガイドブックをもとにeHealthシステムを構築
早稲田大学は1月15日、過敏性腸症候群(IBS)有症状者を対象としたeHealthシステムの開発に成功したと発表した。この研究は、同大人間科学学術院の田山淳教授、埼玉県立大学の濱口豊太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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IBSの重症度、QOLを正常化するためのセルフマネジメント法として、自身でIBS症状をコントロールする方法が記載されているセルフヘルプガイドブックを用いた方法が有効であることが2件のランダム化比較試験でこれまで明らかにされていた。しかし、ユーザーにアクセシビリティの良い運用が十分にはなされておらず、PC、タブレット、スマートフォンなどを用いたセルフマネジメントが行えていない状況だった。
そこで研究グループは、すでにランダム化比較試験でIBS症状の軽減に寄与することが明らかになっているIBSのセルフヘルプガイドブックを日本語に翻訳し、章立て、内容などをeHealthコンテンツ用に加除修正し、eHealthシステムを構築。このeHealthベースのセルフマネジメントプログラムがIBSの重症度を軽減できるという仮説について検証した。
eHealthシステムを用いたセルフマネジメントプログラムで、IBS症状の重症度「減」
eHealth群(n=21)と、eHealth未実施群(n=19)を比較する無盲検単純無作為化比較試験を行い、eHealth群は、8週間、コンピュータとモバイルデバイスでセルフマネジメントコンテンツに無制限にアクセスできるようにした。主要アウトカムはIBS重症度評価表(IBS-SI)とし、副次的アウトカムはQOL・腸内細菌・脳波とし、ベースライン時と8週目に各測定を実施した。
その結果、eHealthによって主要アウトカムであるIBSの重症度が軽減することが明らかになった。さらに、副次的アウトカムに関しては、脳波は変化がなかったものの、QOLの上昇、門レベルの腸内細菌であるCyanobacteriaの減少が認められた。したがって、eHealthベースのセルフマネジメントプログラムにより、IBS症状の重症度を減少させることに成功したとしている。
IBS以外の慢性疾患のセルフマネジメントにもeHealthプログラムを応用できる可能性
IBSをはじめとする慢性疾患の症状改善には長い期間を要することが知られている。今回の研究ではIBSのみをターゲットとし、患者自身が症状と長期間上手に付き合っていくためのセルフマネジメント法としてのeHealthプログラムの効果が明らかにされた。IBS症状を自助努力によってコントロールできることが示されたことで、IBS以外の慢性疾患のセルフマネジメントに対しても、eHealthプログラムが応用できる可能性がある。
今後はeHealthプログラムが何を媒介してIBS症状を改善しているのかの検討が必要
同研究で用いたeHealthプログラムはIBS症状の重症度とQOLに加え、腸内細菌についても正常化した。これらの正常化は、食事、運動、ストレス等の改善によってもたらされた可能性があるが、具体的に何を媒介にした正常化なのかは同研究では明らかにされていない。そのため、今後はeHealthプログラムが、主に何を媒介してIBS症状を改善しているのかの検討が必要だ。
研究グループは「IBSの症状の持続や増悪の主因として、食の関与が大きいことが各国の消化器学会などで発表されている。今回の研究ではIBSの重症度とともに、脳腸の両マーカーも用いてeHealthプログラムの介入効果を検討した。今後もどのような食物摂取が消化器症状を正常化するかについての脳腸相関研究が必要不可欠であり、そのエビデンスを取り入れた無作為化比較試験も重要になってくると考える」と、述べている。
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