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認知症などに関わる脳の実行機能、海馬の新生ニューロンが寄与すると判明-東大ほか

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2024年01月18日 AM09:00

認知機能の司令塔とされる「」、海馬の新生ニューロン寄与については不明

東京大学は1月15日、脳の働きのひとつ「実行機能」の発現において、前頭前野だけでなく、海馬における新生ニューロンが寄与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院新領域創成科学研究科の久恒辰博准教授、Haowei Li学術専門職員/大学院生、田村理佐子大学院生、櫻井圭介特任助教ら、量子科学技術研究開発機構の住吉晃主任研究員、(OIST)の山本雅教授、疋島啓吾MRIスペシャリスト(研究当時)、理化学研究所脳神経科学研究センターのトーマス・マックヒューチームリーダー、田中和正基礎科学特別研究員(研究当時、現OIST准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

実行機能とは、子どもの発達の中で次第に獲得されていく大切な脳の働きのひとつである。これまで、実行機能の神経基盤はヒトの知性にも関わる前頭前野にあると考えられてきた。目標を設定して環境の変化を見極めるとともに自分自身もうまく制御して計画を実行していく、数ある認知機能の中でも司令塔ともいえる機能である。実行機能の中でも反応の抑制、作業記憶、認知的柔軟性の3つは、中核的な機能であると考えられており、ヒト以外の哺乳動物においても進化の過程でこの3つの実行機能が備わっている。

ヒトを含む哺乳動物の海馬では、成体になっても新しく神経細胞(ニューロン)が生まれることが知られている。海馬の新生ニューロンは、海馬回路に新たな流動性を付与するとともに、複雑な認知機能の発現に貢献していることがわかっているが、実行機能の発現における新生ニューロンの具体的な寄与については、これまで不明のままだった。

新生ニューロン機能を抑制可能なマウスで実行機能を測定

研究グループは、新生ニューロンの機能を、完全ではないものの有意に抑えることができる新しいモデルマウス(NBN-TeTX)を開発し、Morris水迷路逆転学習課題や、条件刺激と報酬の関係を学ばせるオペラント装置を用いたGo/Nogo課題を実施した。その結果、海馬新生ニューロンが実行機能の発現に寄与していることを明らかにした。

新生ニューロン機能阻害マウス、逆転学習中の背側海馬で異常に高い脳活動

対照群である普通のマウスでは、逆転学習中の海馬活動は限られた領域においてのみ観察されていたが、新生ニューロンの機能を阻害したマウスにおいては活動する領域が拡がるとともに脳活動(BOLD信号増加率)も異常に高まっていることがわかった。この傾向は、背側の海馬において顕著だった。

海馬歯状回の長軸方向の協調的な機能連結低下も確認

さらに、静止期fMRI解析を行った。海馬新生ニューロンの働きを抑えたマウスでは、海馬歯状回の長軸方向(背側と腹側間)の協調的な機能連結が低下していることを見出した。過去に蓄えられた記憶情報からの干渉を受けてしまうために、作業記憶能力が減衰したと考えられた。

海馬新生ニューロンと認知柔軟性の関係、脳に関係する病気の治療法開発につながる可能性

研究結果は、海馬新生ニューロンによって駆動される海馬新生ニューロン回路が、海馬局所回路の回路バランスを保つことで広範囲な海馬回路活動をコントロールし、さらに大脳新皮質などとの神経回路連携をサポートすることによって、環境の変化を把握して慣れによる行動を抑制し、臨機応変に適応して柔軟な行動を発現することに貢献したことを示唆している。今回の研究成果は、認知柔軟性をもたらす神経回路メカニズムの解明につながると期待される。

認知的柔軟性の脳内メカニズムを知ることは、知性を持った人工知能(生成汎用AI)の開発においても欠かすことができない。アインシュタインの言葉に、”The measure of intelligence is the ability to change.(知性の尺度は、変化する能力で測ることができる)”がある。また、実行機能はさまざまな脳の病気において低下することが知られている。「アルツハイマー病などの認知症の症状進行の過程においても、認知的柔軟性が低下していく事が多数報告されている。海馬新生ニューロン回路を強化することは、これらの実行機能が低下する脳に関係する病気の新しい治療法の開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。

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