臍帯血前処置に関する大規模研究は少なかった
筑波大学は1月15日、急性骨髄性白血病(AML)などに対する臍帯血移植の移植前処置において、抗がん剤のフルダラビンとアルキル化剤のメルファラン(140mg/m2)の投与、および低用量全身放射線照射を組み合わせて用いた場合に、移植成績が最も優れることを、日本の移植レジストリデータを用いた解析により見出したと発表した。この研究は、同大医学医療系の千葉滋教授、栗田尚樹講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Hematology」に掲載されている。
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同種造血幹細胞移植(同種移植)は、急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群などの難治性造血器疾患に対して行われる強力な治療である。同種移植では、移植の前に行われる「移植前処置」(抗がん剤や全身放射線照射を組み合わせた処置)による抗腫瘍効果と、移植された細胞の免疫反応による抗腫瘍効果が期待できる。大量の抗がん剤や全身放射線照射(TBI)を用いた移植前処置(骨髄破壊的前処置)は強い抗腫瘍効果を発揮する一方、毒性が強いことが問題点だった。しかし近年、抗がん剤であるフルダラビンとアルキル化剤(メルファランやブスルファン)、低用量TBIを組み合わせることにより毒性を弱めた移植前処置が相次いで開発され、高齢の場合や、合併症を持つため従来の骨髄破壊的前処置では同種移植が行えなかった患者にも比較的安全に同種移植が行われるようになった。
造血幹細胞の供給元としては、骨髄血、幹細胞を動員した末梢血、臍帯血の3種類があり、それぞれの移植は骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植と呼ばれる。このうち臍帯血移植は、へその緒と胎盤の中の血液(臍帯血)に含まれる造血幹細胞を患者に移植するもので、日本の同種移植件数の3分の1以上を占めており、きょうだいや骨髄バンクに適切なドナーがいない患者に対して、同種移植を受ける機会を提供してきた。
フルダラビンを併用して毒性を軽減した移植前処置は、これまで多くの方法が試みられてきた。骨髄移植や末梢血幹細胞移植では、これらの移植前処置の違いによる移植成績への影響が少ないことが、日本や米国、欧州の移植レジストリデータを用いた研究で示されている。しかし臍帯血移植では移植前処置に関する大規模な研究が少なく、フルダラビンに併用されるアルキル化剤の最適な組み合わせは明らかではなかった。そこで研究では、日本の造血幹細胞移植レジストリ(TRUMP)データベースを用いて、臍帯血移植におけるフルダラビン併用により毒性を軽減した移植前処置ごとの移植成績を解析した。
臍帯血移植を受けた16歳以上の骨髄系腫瘍1,395人が対象
そこで研究では、日本の造血幹細胞移植レジストリ(TRUMP)データベースを用いて、臍帯血移植におけるフルダラビン併用により毒性を軽減した移植前処置ごとの移植成績を解析した。具体的には、2013~2019年に日本で臍帯血移植を受けた16歳以上の骨髄系腫瘍(急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、慢性骨髄性白血病)の患者を対象とし、フルダラビン併用移植前処置のうち最も多く用いられていた「フルダラビン+メルファラン(140mg/m2)+低用量TBI」、「フルダラビン+メルファラン(80mg/m2)+低用量TBI」、「フルダラビン+メルファラン+ブスルファン(12.8mg/kg)」、「フルダラビン+ブスルファン(12.8mg/kg)+低用量TBI」、「フルダラビン+ブスルファン(6.4mg/kg)+低用量TBI」の5種類の移植前処置を受けた1,395人(年齢中央値:61歳)を解析した。
成績最良は「フルダラビン+メルファラン140mg/m2+低用量TBI」、血球回復に優れ、感染症による死亡が最少
解析の結果、フルダラビン+メルファラン(140mg/m2)+低用量TBIを用いた患者は、移植後の再発(3年再発率18%)、合併症による死亡(3年非再発死亡率20%)が少なく、生存が最も優れていることがわかった(3年生存率67%)。それに対して、フルダラビン+ブスルファン(12.8mg/kg)+低用量TBIを受けた患者は生存率が最も劣っていた(3年生存率36%)。これらの結果は移植前処置ごとの患者背景の違いを補正しても統計学的に有意であり、疾患、疾患リスク、年齢に関わらず同様だった。フルダラビン+メルファラン(140mg/m2)+低用量TBIでは、移植後の血球回復に優れ、感染症による死亡が最も少ないことが特徴的だった。
強度が高い処置ではないが、免疫学的な抗腫瘍効果と関連して成績向上の可能性
以上のように臍帯血移植では、骨髄移植や末梢血幹細胞移植とは異なり、フルダラビンを含む移植前処置の違いにより移植成績に大きな差を認めた。フルダラビン+メルファラン(140mg/m2)+低用量TBIにおいて、必ずしも強度が高い移植前処置ではないにも関わらず移植後の再発が少なかったことは、この移植前処置が臍帯血移植における免疫学的な抗腫瘍効果(移植片対白血病効果)と関連している可能性が考えられた。骨髄系腫瘍に対する臍帯血移植において最適な移植前処置を用いることで、臍帯血移植の成績の向上が期待される。
「一般的に臍帯血移植は合併症による死亡が多く、骨髄移植や末梢血幹細胞移植と比較して移植成績が劣るが、最適な移植前処置を用いることでこれを克服しうるかどうか、今後、移植レジストリデータを用いてさらに解明していく。また、フルダラビン+メルファラン(140mg/m2)+低用量TBIを組み合わせた移植前処置と、従来型の骨髄破壊的前処置との比較検討を行う予定だ」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL