医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 高齢誤嚥性肺炎、入院時の口腔健康状態「悪」ほど入院日数「長」-東京医歯大ほか

高齢誤嚥性肺炎、入院時の口腔健康状態「悪」ほど入院日数「長」-東京医歯大ほか

読了時間:約 3分38秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年01月18日 AM09:10

誤嚥性肺炎の入院中患者の前向き研究は少ない、口腔環境の院内転帰への影響は?

東京医科歯科大学は1月15日、高齢誤嚥性肺炎患者において、入院時の口腔健康状態が不良なほど入院日数が長いことが明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授と山口浩平講師、順天堂大学総合診療科の内藤俊夫教授、宮上泰樹助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Geriatrics Medicine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

誤嚥性肺炎は日本の死亡原因第6位であり、高齢者肺炎の80%が誤嚥性という報告もある。その主たる要因は口腔内細菌の誤嚥であり、口腔ケアが誤嚥性肺炎発症予防に効果的であることはすでに医療、介護領域で浸透している。誤嚥性肺炎の背景には摂食嚥下障害もあり、摂食嚥下障害が肺炎発症リスクを約10倍にするという報告もある。しかし、発症後、すなわち誤嚥性肺炎と診断された入院中患者を対象とした前向きコホート研究は少なく、入院時の口腔環境が院内転帰にどのように影響しうるかは十分に明らかになっていなかった。高齢の肺炎患者を対象とした後ろ向き研究では(誤嚥性に限らない)、歯科介入が入院日数短縮や退院時の経口摂取確立に寄与することが報告されている。日本は超高齢社会であり、今後、高齢誤嚥性肺炎患者数は増加していくと考えられる。高齢誤嚥性肺炎患者において、口腔健康状態が治療効果に与える影響が明らかになっていけば、口腔の評価、介入の有用性がより明確となり、医科歯科連携をさらに推進することができる。

65歳以上患者89人対象の前向きコホート研究で

そのため、今回の研究の目的は、高齢誤嚥性肺炎患者を対象に入院時の口腔健康状態、嚥下状態がその後の院内転帰に及ぼす影響、また、口腔健康状態が入院中にどのように変化するかを前向きコホート研究で明らかにすることとした。

研究の対象者は、2021年4月~2022年3月の間に順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターに入院し、誤嚥性肺炎と診断された65歳以上の患者89人(平均年齢:84.8±7.9歳、性別(男性):58.4%)。研究期間は、特定の歯科医師が週に1度、口腔内の評価、口腔ケア、また、看護師など他職種への口腔衛生管理指導をした。調査項目は、口腔健康状態をOral Health Assessment Tool(OHAT)、嚥下機能をFunctional Oral Intake Scale(FOIS)、その他、基本情報として年齢、性別、肺炎重症度、臨床的虚弱度を記録した。肺炎重症度、臨床的虚弱度はそれぞれPneumonia Severity IndexとClinical Frailty Scale(CFS)という専用のスケールを用いた。

入院時の口腔健康状態OHAT中央値7、かなり不良

対象患者の60%以上がCFS 7以上、つまり、要介護の状態だった。OHATは、口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8項目で構成された簡易な評価法で、それぞれの項目を0、1、2の3段階で評価し、数値が高いほど口腔健康状態が不良であることを示す。OHATは歯科医師によって、週に1度、可能な限り退院まで定期的に記録した。FOISは、経口摂取度の7段階のスケールで、7は食形態の調整が必要ない、嚥下機能良好な状態、1は経管栄養で、一切の経口摂取がない状態を示す。同調査における、入院時OHATの中央値は7であり、高齢肺炎患者を対象とした先行研究と比較しても口腔健康状態がかなり不良であることがわかった。

高OHAT群で入院期間が長い傾向

また、中央値で2群に分けて、それぞれの群のOHATの経時変化を調査したところ、入院時高OHAT群は、週ごとにスコアが改善していき、8.3から5.3となった。また、継続的に口腔評価できた患者内訳から、高OHAT群が占める割合は、入院時は52.8%で、その3週後の評価時は60%となり、長期入院の方は入院時のOHATが高い傾向があった。89人のうち、75人が退院。入院日数の平均値は、低OHAT群35.6±27.5日、高OHAT群51.7±42.1日であり、ばらつきがあった。有意差はないものの、高OHAT群が約16日も入院期間が長かったことがわかった。

入院時の簡易な口腔・嚥下評価、院内転帰の有用な予測因子

続いて、より詳細な統計解析手法である重回帰分析を用いて、入院時のOHAT、FOISと院内転帰(入院期間、退院時経口摂取度)の関連を調査した。その結果、年齢、性別、肺炎重症度などを調整しても、入院時OHATは入院期間と有意に関連し、OHATスコアが1上がると、入院日数が5.51日延びることが示された。同様に、入院時FOISは、退院時FOISと有意に関連した。以上より、入院時の簡易な口腔、嚥下機能評価が入院期間や退院時の経口摂取度を予測する因子となり得ることがわかった。

高齢の誤嚥性肺炎治療における医科歯科連携の重要性を改めて示す

同研究の意義は、前向きコホート研究で入院時の簡易な口腔・嚥下機能評価が高齢誤嚥性肺炎患者の院内転帰の有用な予測因子であると示したことだ。入院時の口腔健康状態は入院期間に有意に関連し、また、継続した口腔衛生管理で改善していく。同研究は、高齢の誤嚥性肺炎患者治療における医科歯科連携の重要性を改めて示している。同調査で活用したOHATは口腔衛生状態だけではなく、歯の欠損やう蝕、義歯なども含めた包括的な口腔評価だ。う蝕や義歯の状態は定期的な口腔検査、治療を受けていたかに強く依存するので、歯や義歯を良好に保つ重要性も示唆される。同研究成果は、入院時に早期退院を目指すことはもちろん、入院前、退院後も含めて、誤嚥性肺炎に対するより効果的な医科歯科連携を模索する上でも重要な知見になると期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大
  • 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大
  • 自律神経の仕組み解明、交感神経はサブタイプごとに臓器を個別に制御-理研ほか
  • 医学部教育、情報科学技術に関する13の学修目標を具体化-名大
  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか