上肢を用いた運動負荷試験、心肺機能や運動耐容能の評価に利用できる?
大阪公立大学は1月11日、上肢運動負荷試験による心肺機能評価の可能性を検証し、その結果を発表した。この研究は、同大都市健康・スポーツ研究センターの横山久代教授、生活科学研究科の出口美輪子特任助教、本宮暢子特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Applied Sciences」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
運動負荷試験は、臨床現場において患者が大きな手術に耐えられる心肺機能を持っているか否か、あるいは運動耐容能(身体がどのくらいまでの運動に耐えられるか)を評価する際など、さまざまな場面で用いられている。一般的に運動負荷試験には下肢運動を用いるが、障がいや怪我によって下肢を利用できない場合は、上肢運動を用いる必要がある。しかし、運動負荷試験に上肢を用いた場合は下肢を用いた場合に比べ、心肺機能や運動耐容能が過小評価されることが指摘されている。
上肢運動で見られる過小評価は、腕の疲労などが原因で十分な強度での運動ができないために起こっているだけであり、上肢と下肢とで同程度の運動ができれば過小評価は起こらない可能性がある。一方で、上肢を用いた運動負荷試験の結果が上肢のトレーニング状態に影響される可能性もあり、同試験の有用性を検証する上で、どのような因子が試験結果に影響を与えるのかを調査する必要があった。
運動中の心拍数と酸素摂取量は一定の直線関係を示し、この関係をもとに心肺機能や運動耐容能の評価指標の一つである最大酸素摂取量を推定することができる。そのため、もし心拍数と酸素摂取量の関係が上肢運動時と下肢運動時で同じであれば、上肢を用いた運動負荷試験が心肺機能や運動耐容能の評価に、下肢を用いた運動負荷試験の代わりとして利用可能だと示すことができる。そこで研究グループは今回、上肢エルゴメータと下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験中の、心拍数と酸素摂取量の関係を調べた。
同じ心拍数になる運動でも、上肢エルゴメータでは酸素摂取量「少」
研究では、大阪公立大学のボート部(9人)とサイクリング部(8人)に所属する男子アスリートに上肢エルゴメータと下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験を実施。運動中の心拍数と酸素摂取量を測定した。同研究では、ボート部の学生を上肢のトレーニングを行っている群、サイクリング部を下肢のトレーニングを行っている群とし、運動中の心拍数に対する酸素摂取量の関係式を作成した。
その結果、傾きは、ボート部・サイクリング部ともに運動負荷試験に上肢エルゴメータを使うか下肢エルゴメータを使うかで異なり、同じ心拍数となる運動を行ったとしても、酸素摂取量は上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験で下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験より常に小さくなることが判明した。
上肢の運動負荷試験、上肢のトレーニング状態によらず酸素摂取量が過小評価される
次に、被験者ごとに作成された心拍数に対する酸素摂取量の関係式をもとに、最大酸素摂取量を推定した。その結果、推定された最大酸素摂取量はボート部・サイクリング部ともに、上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験において、下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験より低い値を示したという。
このことから、上肢を用いた運動負荷試験は上肢のトレーニング状態に関わらず、最大酸素摂取量が過小評価されることが明らかになった。
心肺機能・運動耐容能評価の運動負荷試験、上肢は下肢の代わりにならないことが判明
今回の研究で、心肺機能の限界まで運動した時の最大酸素摂取量を推定した結果、その推定値は上肢エルゴメータを用いた運動時で下肢エルゴメータを用いた運動時より小さく、心肺機能や運動耐容能の評価を目的とした運動負荷試験について、上肢は下肢の代わりにならないということが明らかになった。今後、下肢エルゴメータの代わりに上肢エルゴメータを心肺機能や運動耐容能の評価に用いるためには、それぞれの運動時の心拍数と酸素摂取量の関係にどのような要因が影響するのかを、より幅広い集団を対象に明らかにしていく必要がある。
「上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験の結果から、下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験で得られる結果を予測する方法の確立も目指していく」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪公立大学 プレスリリース