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ALSの進行を抑制可能なキナーゼIKKβを同定、細胞質のTDP-43分解促進-名大

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2024年01月15日 AM09:20

進行性の神経変性疾患ALS、既存薬の病態抑止効果は不十分

名古屋大学は1月11日、リン酸化酵素であるIκB kinase beta(アイ・カッパ・ビー・キナーゼベータ、)は筋萎縮性側索硬化症()における神経変性の原因タンパク質であるTDP-43凝集を選択的に抑制することを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、井口洋平講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cell Biology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ALSは運動ニューロンが選択的に細胞死を来すことで筋肉が萎縮する進行性の神経変性疾患である。ALS患者の多くは中高年以降に特別な誘因や前兆もなく発症する。病初期は限られた領域の筋力低下に留まるが、徐々に全身の筋力が低下し、平均3〜5年で呼吸筋麻痺のために自力での呼吸ができなくなり、最終的には呼吸や嚥下を司る筋肉を含む全身の筋肉が動かせなくなる。現在ALS治療薬として保険収載され使用可能なリルゾールとエダラボンの2剤は進行を遅らせる効果はあるが病態抑止効果は十分とは言えない。

TDP-43の核から細胞質への異常移行、C末端以外のリン酸化の影響を検討

ALS患者の9割以上は血縁者に同様の患者がいない孤発性であり、発症原因が特定されていない。しかし死亡したALS患者の脳や脊髄の病理学的・生化学的解析から、ALSの運動ニューロンでは本来核に存在するTDP-43というタンパク質が核から脱出し細胞質に凝集体を形成することがわかってきた。ALS病態では、TDP-43の核内における「機能喪失」と「細胞質における凝集体毒性」が運動ニューロン死の主要因と考えられている。ALSにおけるTDP-43異常を正常化できれば良いがTDP-43がこのような異常を来す原因が特定できていないため、現状では「TDP-43の機能を補う」ことと、「凝集体を減らす」ことが現実的な治療戦略となる。「凝集体を減らす」ためには遺伝子治療技術を用いてTDP-43タンパク質全体の発現を低下させることは可能だがTDP-43の「機能喪失」を増悪させる危険性がある。

ALS運動ニューロン内で凝集したTDP-43はカルボキシ末端(C末端)のセリンが過剰にリン酸化されていて、C末端のリン酸化抗体は病理診断マーカーとして汎用されている。しかし、そのリン酸化自体が直接的にTDP-43の代謝には影響を与えていないと考えられている。TDP-43にはリン酸化される可能性のあるアミノ酸が多く存在するがC末端以外のリン酸化に関しては十分に検討されていなかった。

細胞質局在のIKKβ、凝集型TDP-43のSer92をリン酸化し分解促進させると判明

研究グループは、まずマウス由来神経芽細胞腫株のNeuro2a細胞を用いた実験を行い、タンパク質をリン酸化するキナーゼタンパク質の一つであるIKKβの過剰発現が、野生型TDP-43には影響を及ぼさないものの、核以降シグナルとRNA結合モチーフに変異を加えた細胞質凝集体TDP-43を減少させることを明らかにした。

さらに、プロテオミクスとin vitroキナーゼアッセイにより、IKKβはTDP-43のアミノ末端側の複数のアミノ酸、特に92番目のセリン(Ser92)を直接リン酸化することでTDP-43自体のプロテアソーム分解を促進することを明らかにした。注目すべきことに、IKKβは主に細胞質に局在するため、核において正常に機能するTDP-43を低下させることなく、細胞質で増加したTDP-43の分解を促進することで、結果としてTDP-43の凝集を抑える効果があることがわかった。

IKKβとTDP-43凝集体の同時発現、マウスの海馬ニューロンへの毒性緩和

今回の研究では新たにSer92がリン酸化したTDP-43に対する抗体を作製した。ALSの病理診断マーカーとして使用されているTDP-43 C末端のリン酸化抗体とともに、ALS患者脊髄の免疫染色を行うと、運動ニューロンのすべての凝集体でC末端のリン酸化を認めたが、一部の凝集体ではSer92のリン酸化も検出された。ALS病態では細胞質のTDP-43を積極的に分解する機構が働いているものの、その機能が不十分なために病態が進行している可能性が示唆された。さらに、マウスの海馬ニューロンでTDP-43凝集体とIKKβを同時に発現させる実験を行い、IKKβがTDP-43の凝集体毒性を緩和する効果があることが示された。

ALS病態マウスにおけるIKKβの長期的な治療効果を検証予定

今回、IKKβには細胞質のTDP-43の分解を促進し、TDP-43凝集体毒性を軽減させる効果があることがわかった。IKKβは同じくリン酸化酵素であるIKKα、足場タンパク質であるNEMOと複合体を形成し、免疫反応や炎症などさまざまな細胞活動に関わるNF-kBの活性を制御する酵素であるが、ALSにおける役割は研究されていなかった。「今後はALS病態を反映したモデルマウスに対し、IKKβの長期的な治療効果を検証する予定」と、研究グループは述べている。

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