知的障害を引き起こすLGI3変異、その病態機構は?
名古屋大学は1月9日、知的障害の原因遺伝子産物(タンパク質)の一つLGI3が、脳内で髄鞘形成を担うオリゴデンドロサイトから分泌され、神経軸索上の受容体ADAM23と結合することで電位依存性カリウムチャネル(Kv1チャネル)を制御し、正常な神経伝達に寄与していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経情報薬理学の宮﨑裕理助教、深田優子准教授、深田正紀教授ら、生理学研究所の大塚岳助教、平林真澄准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。
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ヒトの脳は極めて複雑な情報処理を行っており、その過程には神経細胞をはじめとする種々の細胞が関わっている。正常な脳活動には、これらの細胞においてさまざまなタンパク質が正しく機能することが重要であり、遺伝子変異などによるタンパク質の機能異常は多様な神経疾患を引き起こす。したがって、疾患と関連する遺伝子産物(タンパク質)の脳内における機能を明らかにすることは病態メカニズムを理解する上で極めて重要だ。
LGI3は、LGI1~LGI4まで存在するLGIファミリー遺伝子に属しており、分泌タンパク質として働く。それぞれの遺伝子変異は、てんかんや末梢神経の髄鞘低形成など多様な神経疾患を引き起こすことが知られている。研究グループは、LGIファミリー遺伝子変異による神経疾患発症機序の解明に取り組んできた。最近、ヒトの遺伝学的解析により、LGI3変異が知的障害を引き起こすことが報告されたが、その病態機構は不明だった。
そこで今回の研究では、LGI3タンパク質が脳内のどこに局在するか、どのようなタンパク質と結合して機能しているのかを明らかにするとともに、LGI3の欠損が引き起こす生理学的な異常を調べた。これらを通じて、LGI3が正常な脳活動にどのように寄与し、その機能破綻がどのようにして神経疾患を引き起こすのかを明らかにすることを目的とした。
オリゴデンドロサイトから分泌のLGI3、Kv1チャネル制御し正常な神経伝達に寄与
まず、タグ(目印)をつけたLGI3を発現するマウスをゲノム編集技術によって作製し、マウスの脳内におけるLGI3の局在を調べた。その結果、LGI3は神経軸索に髄鞘を形成するグリア細胞の一種(オリゴデンドロサイト)から分泌され、白質領域に強く分布していることが明らかになった。さらに、LGI3の局在を詳細に調べたところ、LGI3は髄鞘化された神経軸索の特殊な部位(傍パラノード)に限局して存在していることがわかった。
次に、マウス脳からLGI3タンパク質を精製し、ショットガン質量分析法によりLGI3結合タンパク質を網羅的に調べた。その結果、膜タンパク質のADAM23や電位依存性カリウムチャネル(Kv1チャネル)等が結合していることが明らかとなった。LGI3欠損マウスにおいては、傍パラノードにおけるADAM23やKv1チャネルのクラスター形成が著しく阻害され、髄鞘化された軸索上の活動電位伝播や神経細胞間のシナプス伝達効率の変化(短期的シナプス可塑性)阻害されていることがわかった。
これらの結果から、ヒトの脳内でもオリゴデンドロサイトから分泌されたLGI3が、軸索上の傍パラノードにおいてKv1チャネルを制御し、正常な活動電位伝播やシナプス伝達の遂行に寄与していると考えられる。一方、遺伝子変異によりLGI3タンパク質の機能が破綻すると、これらの生理的な神経伝達が破綻し、知的障害の発症につながるのではないかと考えられる。
今後、神経疾患の治療戦略開発につながると期待
今回の研究により、知的障害の原因タンパク質LGI3は、髄鞘化された神経軸索の傍パラノードでKv1チャネルを制御することにより、正常な神経伝達に寄与していることが明らかとなった。一方、他のLGIファミリータンパク質は傍パラノード以外にもシナプスや軸索起始部などの異なる細胞内領域でもADAM23ファミリーと結合することがわかっており、その一部はKv1チャネルと相互作用していると考えられている。
研究グループは今後、LGIファミリー/ADAM23ファミリー/Kv1チャネルからなるタンパク質複合体の詳細な結合様式を明らかし、このタンパク質群が担う生理的な機能の全容を解明したいとしている。さらに、これらの研究を通じて、Kv1チャネル機能やタンパク質の安定性を高める方法を見出すことで、LGI3遺伝子変異による知的障害を含むKv1機能異常を原因とした神経疾患治療戦略の創出につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース