先行研究で川崎病と葉酸サプリ摂取の関連を指摘、血中葉酸濃度も加えて解析
国立成育医療研究センターは1月9日、環境省が主導する「子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)」の約9万組の母子のデータを用いて、妊娠中の母親の血液中の葉酸濃度、妊娠中の葉酸サプリメントの摂取頻度と生まれた子どもの生後12か月までの川崎病の発症との関連について解析し、妊娠中の血液中の葉酸濃度が高い母親から生まれた子どもは川崎病の発症リスクが約30%低くなることが明らかになったと発表した。この研究は、横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学の福田清香氏、伊藤秀一氏、国立成育医療研究センターデータサイエンス部門の小林徹氏、京都大学大学院医学研究科臨床統計学の田中司朗氏の研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。
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葉酸は、ビタミンB群の一種に分類される必須の栄養素で、妊娠前から妊娠初期のサプリメントによる葉酸摂取は、胎児の神経管閉鎖障害の予防に有効であるという根拠はすでに確立しており、世界中で妊婦の葉酸サプリメント摂取が推奨されている。日本でも2000年に厚生労働省から、妊娠可能な年齢の女性における妊娠前から妊娠初期に、通常の食事に加えてサプリメントなどの葉酸補助食品から一日0.4mgの摂取が勧められる旨の通知が示されている。しかし、実際に摂取している女性はまだまだ少なく、周産期における母子保健上の大きな課題になっている。
川崎病は1967年に小児科医・川崎富作博士により報告された乳幼児に好発する原因不明の疾患である。全身の血管に炎症が生じ、後遺症として心臓を栄養する冠状動脈に瘤が発生し、最悪の場合には心筋梗塞を起こし突然死してしまうことが大きな問題だ。日本は世界で最も川崎病の発生が多い国で、現在年間約1万人以上の新規患者が発生し、乳幼児の100人に1人が罹患すると推定されている。
今回研究グループは、先行研究において関連を指摘した、妊娠中期から後期の母親の葉酸サプリメント摂取に注目し、血液中の葉酸の濃度も加えて、生まれた子どもの生後12か月までの川崎病発症との因果関係について詳しく検討した。
エコチル調査参加者のうち約9万人が対象
エコチル調査に登録された妊婦から生まれた10万4,062人の子どものうち、流産、死産、調査への協力辞退、母親の妊娠中の葉酸摂取に関する情報が得られていないなどにより対象外になった人を除いた8万7,702人が調査対象となった。このうち336人の子どもが1歳までに川崎病を発症した。
葉酸サプリ摂取が高頻度で血中葉酸濃度が高い母親の子、発症リスクが約30%減少
8万7,702人の子どもの母親を、妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取頻度によって4つの群(毎日、週1回以上、月1回以上、摂取なし)に分け、母親の妊娠中の血液中の葉酸濃度の分布を検討したところ、サプリメント摂取頻度が高い群ほど葉酸濃度もより高くなるという傾向が明らかになった。
さらに、母親の血液中の葉酸濃度や葉酸サプリメント摂取頻度と子どもの川崎病発症との因果関係を評価するために、プロペンシティスコア解析の手法を用いて検討した。その結果、妊娠中期から後期の血液中の葉酸濃度が高い母親から生まれた子どもは、生後12か月までの川崎病の発症頻度が約30%低いことが明らかになった。また、妊娠中期から後期の葉酸サプリメント摂取頻度が高い母親から生まれた子どもも、川崎病の発症頻度が約30%低い傾向が示された。一方、母親の食事からの葉酸摂取量は、川崎病を発症した子どもと発症しなかった子どもの間では差がなく、葉酸サプリメントの摂取が血液中の葉酸濃度を高めていることがわかった。
「今回の研究結果は妊娠中、特に中期から後期の葉酸サプリメント摂取は母親の血液中の葉酸濃度を高め、その結果として子どもの川崎病の発症リスクを下げる可能性があり、改めて妊娠全期間を通しての葉酸サプリメント摂取が推奨される根拠を示したと考えられる」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース