有病率が約2,100人に1人の難病「筋強直性ジストロフィー」
山口大学は12月21日、抗生物質エリスロマイシンについて、筋強直性ジストロフィー対象の多施設共同医師主導治験で安全性と有効性を検証した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の中森雅之教授(臨床神経学)、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部国際共同臨床研究支援グループ長/医学系研究科(循環器内科学)の中谷大作准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eClinicalMedicine」に掲載されている。
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筋強直性ジストロフィーは、有病率が約2,100人に1人と頻度の高い遺伝性疾患。骨格筋の症状による筋力低下だけでなく、心臓の症状として不整脈や心不全、脳の症状として認知機能低下や性格変化、ほかにも糖尿病や白内障など、多様な全身症状を呈する。筋強直性ジストロフィー患者は、進行する筋力低下により寝たきり状態となり、嚥下・呼吸障害や致死性不整脈・心不全で不幸な転帰をとる。現在、有効な根本的治療薬はない難病だ。
筋強直性ジストロフィーでは、変異のある遺伝子から生成された異常RNAがスプライシング制御因子を凝集する結果、体内のスプライシング調節機構が破綻する。このためさまざまな遺伝子のスプライシング異常が引き起こされ、多様な全身症状の原因となる。また、こうしたスプライシング異常が筋強直性ジストロフィーの病気の本態であり、疾患の重症度を示す指標(バイオマーカー)であることもわかっている。
ドラッグリポジショニングでエリスロマイシンを候補に同定、モデルマウスで有効性を実証
研究グループは先行研究により、既存薬の中に筋強直性ジストロフィーに効果があるものを探索するドラッグリポジショニングアプローチで、抗生物質エリスロマイシンを候補化合物として見出した。また、すでに他疾患で使用されている用法用量で、筋強直性ジストロフィーモデルマウスで有効性を示すことも実証している。こうした基礎研究によって見出された新しい治療法の安全性と有効性を科学的に証明し、保険診療で使えるようにするため、今回、医師主導治験を実施した。
筋強直性ジストロフィー患者30人対象、医師主導P2試験
今回の医師主導第2相治験(多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験)は、山口大学の中森雅之教授を調整医師として、NHO青森病院、NHO大阪刀根山医療センターを含めた3施設で、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部と国立精神・神経医療研究センターの協力のもと、2019年に開始。筋強直性ジストロフィー患者30人が参加し、24週間にわたりプラセボもしくはエリスロマイシンを内服し、治療の安全性と有効性を検証した。
重篤な有害事象なし、スプライシング異常を有意に改善で有効性も確認
主要評価項目として設定された安全性については、エリスロマイシン投与群で消化器症状と関連する有害事象がやや多く見られたものの、重篤なものはなく、全例で軽快した。この他、重篤な有害事象は見られなかった。有効性を示す副次評価指標として、スプライシング異常がエリスロマイシン投与群で統計学的有意に改善していることが示された(p=0.042)。また、筋障害の指標となるクレアチンキナーゼ(CK)値も、エリスロマイシン投与群で低く抑えられる傾向が見られた。
今後のP3試験の結果次第だが、世界初の筋強直性ジストロフィー治療薬として期待
これまで、筋強直性ジストロフィーに対して、さまざまな治療薬の候補が開発されてきたが、実際に患者で病気の本態であるスプライシング異常を統計学的有意に改善したものはエリスロマイシンが世界初となる。また、安全性にも特に問題が見られなかったことから、今後の第3相治験でより多くの患者に対するエリスロマイシンの安全性と有効性が実証された場合、世界初の筋強直性ジストロフィー治療薬としての薬事承認につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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