外傷性脳損傷の9割が発症の両眼性複視を含む眼球運動障害、複視に関する報告は限定的
畿央大学は12月26日、外傷性脳損傷後に両眼性複視を呈した患者に対して眼球運動訓練を実施し、その治療経過をまとめた症例報告を発表した。この研究は、岸和田リハビリテーション病院の中村兼張氏、同大の渕上健客員研究員、同大ニューロリハビリテーション研究センター・同大大学院健康科学研究科の森岡周教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Case Reports」に掲載されている。
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外傷性脳損傷患者の約90%が、両眼性複視を含む眼球運動障害を発症すると報告されている。両眼性複視とは、1つの物体が2つの物体に知覚される状態であり、左右の眼球の視軸のズレによって引き起こされる。複視を含む両眼視機能の障害は、転倒による骨折の可能性を高め、運動能力や日常生活動作、QOLの回復に悪影響を及ぼす。複視に関連する輻輳、追視、サッカードに関する眼球運動訓練はすでに臨床現場で導入されており、治療効果が報告されている。しかし、これまでの研究では、輻輳や近視、眼球運動障害に焦点が当てられることが多く、専門機器で測定できる複視症状に関する亜急性期からの長期的な追跡調査報告はほとんどなかった。
30代男性患者、両眼性複視への眼球運動訓練治療経過を追跡
今回の研究では、両眼性複視を呈した患者に対して眼球運動訓練を実施し、眼球運動機能、複視症状のみでなく、視線推移の評価も加えて経過を追跡した。患者は、30代男性。外傷性脳損傷後に右眼球の外転方向への運動機能低下と両眼性複視症状を呈していた。運動麻痺や感覚障害、高次脳機能障害は認めなかった。
眼球運動機能・複視症状・視線推移を評価
毎日2回、40分間の眼球運動訓練を4週間継続。眼球運動訓練の内容は、セラピストがゆっくりまたは素早く右側に動かしたレーザーポインターを追視させること、右眼球を外転方向へ最大に動かし保持させること、@ATTENTION(クレアクト社製)に搭載された機能で点滅するターゲットを追視させることとした。
治療経過は、右眼球の外転方向への運動距離、正中からの複視出現角度、Holmesの複視質問票を用いて追跡。@ATTENTIONに搭載されている視線推移も計測した。
治療効果確認、障害側だけでなく非障害側への訓練の必要性も示唆
追跡の結果、右眼球の外転距離と複視出現角度、視線推移、視線座標の誤差ともに改善。複視質問票の点数は、介入前の76点から、2週後に26点、4週後に12点と改善を認めた。
これらの結果から、眼球運動訓練を行うことで、障害されていた右眼球外転運動や複視が改善し、視線も安定することを確認した。4週後には障害側の的と視線との誤差よりも、反対側の的と視線との誤差が大きくなっていたことから、障害側だけでなく、非障害側への眼球運動訓練の必要性が示唆された。
今後、症例数増・前向き研究で効果検証を
今回、両眼性複視に対する眼球運動訓練の経過を追跡し、その有効性が認められた。さらに、視線推移分析から、障害側への眼球運動訓練だけでなく、非障害側への眼球運動訓練も必要であることが示唆された。今後は、症例数を増やし、前向き研究デザインで効果を検証していく必要がある、と研究グループは述べている。
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・畿央大学 プレスリリース