川崎病の発症リスクに、胎児期の有機フッ素化合物のばく露が関与?
北海道大学は12月22日、約2万5,000人の妊婦の血中有機フッ素化合物(PFAS:Perand polyfluoroalkyl substances)濃度と、生まれた子どもの4歳までの川崎病の発症について解析した結果を発表した。この研究は、エコチル調査北海道ユニットセンター(北海道大学)の岩田啓芳特任准教授と岸玲子特別招へい教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environment International」に掲載されている。
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするため、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査だ。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学などに地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施している。
川崎病は、発症後に心血管合併症を引き起こすリスクのある小児に好発する疾患だが、その正確な病因はいまだ不明とされている。PFASは、炭素とフッ素の結合を含む有機化合物の総称で、撥水・撥油性を有するため撥水撥油剤、界面活性剤、消火剤、調理器具のコーティング剤などへ使用されている。環境中で分解されにくい性質から、環境・生態系やヒトへの影響が危惧されている。また免疫抑制作用がある合成化学物質として注目されている。
研究グループは今回、胎児期のPFASのばく露が川崎病発症のリスクに影響を与えるか否かを評価することを目的として解析を行った。
参加者6割以上で報告限界値超えの7種のPFASを解析、川崎病発症との関連見られず
研究では、エコチル調査に参加した妊婦2万5,040人から採取した血液中の28種類のPFAS濃度を測定するとともに、当該妊婦から2011~2014年に生まれた子ども(2万5,256人)を4歳まで追跡。このうち川崎病を発症した子どもは271人(約1.1%)だった。
28種類のPFASのうち、参加者の60%以上で報告限界値(Method reporting limit)を超えるレベルで測定された7種類のPFAS(パーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロノナン酸(PFNA)、パーフルオロデカン酸(PFDA)、パーフルオロウンデカン酸(PFUnA)、パーフルオロトリデカン酸(PFTrDA)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS))を解析対象とした。解析方法は回帰分析とし、複数あるPFAS物質の混合効果の影響も評価した。
その結果、同研究で解析に用いた7種類のPFASが川崎病発症を増加させるような結果は認められなかったとしている。
PFAS濃度と川崎病発症との総合的な関連は、引き続き解析が必要
今回解析対象とした7種類以外のPFASと川崎病発症との総合的な関連については、今後も引き続き検討が必要だ。今後、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質などの環境要因が明らかとなることが期待される。
一方で、研究グループは「今回の結果は、妊娠中の母体の血中PFAS濃度とその子どもの川崎病発症との関連を解析したものであり、川崎病を発症した子どもの血中PFAS濃度の測定は行っていない。生後の子どものPFAS濃度と川崎病発症との総合的な関連については今後も引き続き解析が必要だ」と、述べている。
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・北海道大学 プレスリリース