父親の飲酒は子の先天性異常と関連
妊婦の飲酒が胎児の健康に悪影響を及ぼすことは、これまで多くの研究で指摘されている。しかし、男性の飲酒も新生児の先天性異常のリスクを高める可能性のあることが新たな研究で明らかになった。論文の上席著者である米テキサスA&M大学獣医学・生物医学科学大学教授のMichael Golding氏は、「新生児の先天性異常を避けたい男性は、妊娠を試みる3カ月前から禁酒するべきだ」と述べている。この研究結果は、「Andrology」に12月3日掲載された。
画像提供HealthDay
胎児性アルコール症候群は妊娠中の大きなリスクであり、出生児に顔面などの形態異常、低出生体重、注意力や多動性の問題、協調性の欠如などを引き起こす可能性がある。胎児性アルコール症候群を診断する際には、母親の妊娠中の飲酒の有無を確認する必要があるが、父親に対する確認は必要とされていない。Golding氏は、「長い間、男性の飲酒については全く考慮されてこなかった。ここ5〜8年間でようやく、特定の条件下では、父親のアルコール摂取が胎児の発育に非常に強い影響を及ぼす可能性のあることが検討されるようになった」と話す。
研究グループによると、定期的に飲酒する男性の精液は、胎児性アルコール症候群やその他の妊娠合併症に関連する脳や顔の欠陥に関連し、父親の飲酒により精子の遺伝子に生じたエピジェネティックな変化が子の外観や性質などに影響を及ぼすことが、先行研究で示唆されているという。しかし、禁酒することで精子のエピジェネティックな変化がどの程度緩和するのかについては、明確になっていない。
Golding氏らは今回、定期的に飲酒している人が飲酒を4週間控えた場合に、精巣上体頭部での精子の遺伝子発現パターンが飲酒をしていない場合と比べてどう変わるのかを、マウスを用いた実験で検討した。マウスには、6%または10%のアルコールを10週間摂取させ、その後の4週間は摂取させなかった。その後、精巣上体の頭部から精子を採取してRNAやミトコンドリアDNAの解析を行い、アルコール摂取が精子のsmall RNA量やミトコンドリアDNAのコピー数に及ぼす影響を検討した。これまでの研究では、small RNAが親から子への環境情報のエピジェネティックな伝達において中心的な役割を果たすことや、アルコール摂取が肝臓でのミトコンドリアDNAのコピー数と転写に影響を与えることが示唆されている。
その結果、慢性的なアルコール摂取は、精巣上体頭部のミトコンドリア機能、酸化的リン酸化、および一般的なストレス応答に関連する遺伝的経路の転写制御に変化をもたらすことが明らかになった。また、精巣上体全体にわたってアルコール摂取によりミトコンドリアDNAのコピー数が変化し、この変化はアルコールに曝露した精子のミトコンドリアDNA含有量の増加と関連することも判明した。アルコールを摂取したマウスでは、アルコールの離脱から1カ月が経過してもミトコンドリアDNAのコピー数の増加が維持され、small RNAの一種であるマイクロRNA(mir-196a)はアルコールを摂取していないマウスの約100倍であった。
こうした結果を受けてGolding氏は、「この研究では、アルコールからの離脱期間でも、精子はアルコール摂取の悪影響を受け続けていることが明らかになった。これは、精子がもとの正常な状態に戻るまでには、これまで考えられていたよりもはるかに長い時間がかかることを意味する」と大学のニュースリリースで述べている。
またGolding氏は、「離脱期間中に肝臓は恒常的に酸化ストレスにさらされるため、肝臓から体全体にそのシグナルが送られる。生殖系はそのシグナルを、『酸化ストレスが非常に強い環境に置かれている』と解釈し、その環境にも適応できるように子孫をプログラムしている可能性がある」と説明する。そして、そうした適応が、胎児性アルコール症候群のような問題を引き起こしている可能性が高いとの見方を示している。
Golding氏は、今回の研究で得られた知見により、妊娠アウトカムが改善するとともに、アルコール関連の先天性異常の責任を母親にのみ求める考え方に変化が生じることに期待を示している。また、「精子は60日かけて作られ、アルコール離脱には少なくとも1カ月かかるため、安全を期して、父親は、妊娠の3カ月前からアルコールの摂取を控えるべきだ」と助言している。
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