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家族性骨形成不全症、TRIC-Bチャネル欠損が関与するメカニズム判明-京大

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2023年12月27日 AM09:20

小胞体TRICチャネルTRIC-B遺伝子変異が原因、病態機序の全容は未解明

京都大学は12月21日、小胞体という細胞内小器官に発現する陽イオンチャネルTRIC-Bの遺伝子欠損によって発症する家族性骨形成不全症の症状の1つである低身長の病態生理学的メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の市村敦彦助教、宮崎侑博士課程学生(研究当時)、竹島浩教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Death and Disease」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

細胞内Ca2+はさまざまな生理機構を制御する重要なシグナル分子として機能する。例えば、受精、筋収縮、神経伝達物質やホルモン分泌などは、細胞内Ca2+濃度が適切に上昇することにより調節されている。しかしその一方で、Ca2+シグナルを調節するメカニズムには不明なことが多く残されている。特に、各種の刺激に応答してCa2+を細胞質へ放出する機能を持つ小胞体には、機能がよくわかっていないタンパク質が多数発現している。

研究グループは2007年、小胞体Ca2+の持続的な放出に必要なカウンターイオンチャネルとして、小胞体TRICチャネルを同定した。TRICチャネルは、小胞体に分布する陽イオン透過性チャネルで、小胞体Ca2+放出を補助する機能を担っている。哺乳動物においてはTRIC-AとTRIC-Bの2種類サブタイプが独自の組織特異的パターンにより分布し、TRIC-Bチャネルは全身のさまざまな細胞において普遍的に発現している。TRIC-B遺伝子変異がヒト家族性骨形成不全症の原因となることが海外の複数のグループから報告されたことをきっかけとし、その病態機序が注目されている。

また、研究グループは2016年、骨形成不全症モデルのTric-b遺伝子欠損マウスでは骨芽細胞のCa2+シグナルの異常とI型コラーゲン分泌不全から骨密度低下の表現型に至ることを報告した。一方、TRIC-B変異を伴う骨形成不全症では低身長や成長障害がみられるが、その原因は骨を固くする機能を担う骨芽細胞の機能不全では説明できない。Tric-b欠損マウスには低体長が観察され、骨を伸ばす機能を担う成長板軟骨細胞においてもTRIC-Bが細胞内Ca2+シグナルを介してなんらかの機能を担っていると予想し、その解析を進めた。

Tric-b欠損マウス、野生型より骨端部の軟骨組織小さく非典型的な細胞死も観察

最初に、Tric-b欠損マウスの生まれる直前の胎児大腿骨の組織染色を行った。その結果、Tric-b欠損マウスの大腿骨では骨端部分の軟骨組織が全体的に野生型マウスよりも小さく、細胞外基質の量が減少していることがわかった。また、電子顕微鏡解析から、組織を構成する細胞全体のうち0.6%ほどのごくまれな出現頻度で、細胞質が大きく膨らみ細胞核が濃縮した非典型的な細胞死を起こしている細胞が観察された。この非典型的死細胞は、Tric-b欠損マウスの大腿骨以外にも肋骨や上腕骨などの軟骨組織でも観察されたが、野生型マウスには全く存在しない異常な死細胞であることがわかった。

Tric-b欠損により軟骨組織へのII型コラーゲン蓄積、小胞体ストレス経路の活性化を確認

次に、Tric-b欠損マウス胎児大腿骨について、特異抗体を用いた手法で評価した。その結果、Tric-b欠損軟骨細胞では、軟骨組織における細胞外基質の主成分であるII型コラーゲンが過剰に細胞内に蓄積していることがわかった。これらのことから、Tric-b欠損は軟骨細胞において小胞体への不良なコラーゲン蓄積を引き起こすと考えられた。小胞体はタンパク質や脂質を合成する細胞内小器官であり、そこへ不良タンパク質が蓄積すると小胞体にストレスが恒常的にかかっていることが予想された。そこで、主要な小胞体ストレス応答経路について検証した。その結果、Tric-b欠損軟骨組織では、主に3種類が知られる小胞体ストレス経路のうちでもPERK-eIF2α-ATF4-CHOPの経路が強く活性化していることがわかった。さらに、小胞体ストレスの下流で細胞死を誘導するタンパク質分解酵素であるカスパーゼ12やカスパーゼ3の活性化も観察され、Tric-b欠損によって軟骨細胞死が誘導される分子メカニズムが明らかになった。

成長板軟骨細胞で、コラーゲン含むタンパク質の輸送・分泌に関わる小胞体Ca2+放出が障害

Tric-b欠損によって軟骨細胞機能が障害される分子メカニズムを解明するため、さらに軟骨細胞内Ca2+シグナルについて検討した。コラーゲンを含む小胞体で合成されたタンパク質の細胞内小器官間輸送や、細胞外への分泌のさまざまなプロセスにCa2+は必須の分子として関わっていることが知られている。TRIC-Bは小胞体Ca2+放出に関与するカウンターイオンチャネルであることから、Tric-b欠損によるコラーゲンの分泌異常はCa2+シグナルの異常に起因する可能性が考えられた。そこで、軟骨細胞内Ca2+シグナルに対するTric-b欠損の影響を調べた。その結果、Tric-b欠損成長板軟骨細胞において、小胞体Ca2+の放出が障害されており、定常的な細胞内Ca2+濃度が高くなっていることがわかった。こういった細胞内Ca2+濃度調節(いわゆるCa2+ハンドリング)異常は、肺胞上皮細胞や骨芽細胞でも観察されており、TRIC-Bがさまざまな細胞において正常なCa2+ハンドリングに必要な分子であることを示唆している。また、活性化している小胞体ストレス経路の薬理学的活性調節によって細胞内Ca2+濃度が変化することがわかり、小胞体ストレスの亢進が細胞内Ca2+シグナル調節にも寄与していることが示された。

骨形成不全症で引き起こされる低身長の診断・治療への応用にも期待

骨形成不全症は指定難病であり、骨が脆く骨折しやすい以外に低身長や成長障害が起きることが知られている。原因となる遺伝子変異が複数存在するため、今回の知見が全てに当てはまるわけではないが、少なくともTRIC-B遺伝子変異を原因とする希少な家族性骨形成不全症においては骨が伸びにくくなる病態メカニズムがわかった。今後、共通した分子機序が他の遺伝子変異を原因とする骨形成不全症でも観察される可能性もある。今回の発見は骨伸長の分子メカニズムを理解するための基礎研究に貢献するだけでなく、骨形成不全症によって引き起こされる低身長の診断や治療への応用も期待される。

小胞体Ca2+シグナルに関与する他の疾患の病態解明にもつながる可能性

さらに、今回の一連の結果や過去のTric-b欠損マウスを用いた解析から、小胞体におけるCa2+ハンドリングと分泌タンパク質プロセシングは密接に関連することが示唆される。小胞体Ca2+ハンドリングの機能不全や機能不良に起因して発生する分泌タンパク質の分泌不良や細胞内蓄積が関与する病態が他にも存在する可能性があり、今回の発見は小胞体Ca2+シグナルに関与する疾患の病態解明に資すると考えられる。「今後、他の細胞種におけるTRICチャネルの生理機能を解析するとともに、軟骨細胞におけるCa2+ハンドリングと生理機能についてより詳細に解明する」と、研究グループは述べている。

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