白癬治療薬に対する薬剤耐性菌が報告されており、新規治療の開発が求められている
帝京大学は12月18日、白癬菌の新たな抗真菌薬の標的候補を同定したと発表した。この研究は、武蔵野大学薬学部薬学科の大畑慎也准教授と石井雅樹助教、明治薬科大学の松本靖彦准教授、帝京大学医真菌研究センターの山田剛准教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Microbiology Spectrum」に掲載されている。
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白癬(水虫)は、カビが原因で起こる最も身近な感染症の一つで、日本国内における足白癬の罹患率は21.6%と推計されている。日本の人口が1億2000万人であることから罹患者数は2,500万人以上に上ると推測され、まさに国民病とも言える状況だ。超高齢社会の進展に伴って罹患者数はさらに増加することが予測され、疾患の克服が望まれている。また、かゆみや発赤、爪の変形や変色などの主要な症状のほかにも、喘息などのアレルギー症状を悪化させることも指摘されており、感染により患者の生活の質(QOL)が著しく低下する。
現在、臨床で使用されている白癬の治療薬(抗真菌薬)は、真菌の増殖に必須なステロール合成経路を標的としている。しかし、近年ではこのような作用を有する治療薬に対する薬剤耐性菌の存在が多数報告されており、新たな治療法の開発が求められている。
TrCla4欠損で、培地上菌糸の成長抑制/菌糸先端へのアクチン局在性低下
研究グループは、白癬菌の細胞骨格タンパク質アクチンの動態を制御することが知られている「p21-activated kinase(PAK)」の機能を白癬菌で調べるため、遺伝子組換え技術を用いて、白癬菌のPAKの一つである「TrCla4」を欠損させた変異株を作出した。その結果、野生株(遺伝子組換えをしていない元の菌株)と比べ、TrCla4欠損株は培地上における菌糸の成長が明確に抑制されていた。
さらに、野生株ではアクチンが菌糸の先端に局在するのに対し、TrCla4欠損株では菌糸先端へのアクチン局在性の低下が見られた。
TrCla4タンパク質阻害剤で、白癬菌に感染したカイコが延命
次に、白癬菌のTrCla4タンパク質が持つキナーゼ活性を阻害する化合物を探索し、FRAX486およびIPA-3を同定した。白癬菌のカイコ感染モデルを用いてこれらの化合物の治療効果を評価した結果、TrCla4タンパク質阻害剤が白癬菌を感染させたカイコを延命させることが明らかになった。
以上の結果から、白癬菌TrCla4タンパク質が白癬菌に対する新たな治療標的候補となり得ることが示唆された。
TrCla4タンパク質が、水虫の新規治療標的候補となる可能性
今回の研究成果により、水虫の原因真菌である白癬菌のTrCla4タンパク質が、菌の細胞を形作るアクチンの動体を制御することが初めて明らかにされた。さらにTrCla4阻害剤が白癬菌の菌糸成長を抑制し、感染実験においてモデル動物の感染死を延命する効果が確認された。
本研究成果は、国際連合が定めたSDGsのうち、「3.すべての人に健康と福祉を」に貢献するものだと、研究グループは述べている。
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