トリプルネガティブ乳がん、多様なメカニズムによる化学療法抵抗性で治療困難
関西医科大学は12月18日、トリプルネガティブ乳がんの抗がん剤抵抗性にエネルギー代謝が関わることを解明し、その制御に関わる分子Mint3を抑制することでトリプルネガティブ乳がんを抗がん剤感受性に変化させることに成功したと発表した。この研究は、同大附属生命医学研究所がん生物学部門・坂本毅治学長特命教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Death & Disease」に掲載されている。
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トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体やタンパク質の発現HER2が見られないタイプの乳がんで、乳がん全体の15~20%を占める。トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体やHER2といった治療標的となり得るタンパク質を発現していないため、治療には細胞傷害性抗がん剤を用いた化学療法が用いられる。トリプルネガティブ乳がんは高い再発率と再発後の急速な進行を示すため、化学療法による最終的な治療成績は芳しくない。また、一般的に抗がん剤のスクリーニングで用いられる細胞培養実験でトリプルネガティブ乳がんに効果を示した抗がん剤が、生体ではそれほど効果を示さないことがある。トリプルネガティブ乳がんの化学療法に対する抵抗性にはさまざまなメカニズムが関わっており、このことがトリプルネガティブ乳がんの治療を困難にしていると考えられている。
がん悪性化促進分子Mint3に着目、発現抑制で抗がん剤抵抗性は変化する?
通常の細胞培養の環境と異なり、生体ではがんは酸素や栄養が限られた厳しい環境にある。そこで、同研究では細胞内酸素センサーの調節に関わりがんの悪性化を促進するMint3という分子に着目。トリプルネガティブ乳がんでMint3の発現を抑えた際に抗がん剤への抵抗性が変化するかについて、細胞培養実験とマウスへの腫瘍移植実験で解析を行った。
マウスに移植の腫瘍、Mint3発現抑制で抗がん剤抵抗性減少+HSP70発現低下
研究の結果、細胞培養実験ではMint3の発現を抑えても抗がん剤への抵抗性は変化しなかったが、マウスに移植した腫瘍ではMint3の発現を抑えることで、細胞傷害性抗がん剤のドキソルビシン、パクリタキセルに対する抵抗性が減少し、化学療法によりトリプルネガティブ乳がん腫瘍の増殖を顕著に抑えることができた。
そこで、Mint3を抑えることでトリプルネガティブ乳がん腫瘍の中でどのような変化が起こっているかについて遺伝子発現解析を行った。その結果、マウスに移植したトリプルネガティブ乳がん腫瘍でMint3を抑えるとHSP70などのストレス耐性に関わる遺伝子の発現の低下が観察された。
ヒト検体でMint3とHSP70の発現は正に相関、HSP70阻害で抗がん剤抵抗性減少
ヒトのトリプルネガティブ乳がん手術検体においても、Mint3の発現とHSP70の発現が正に相関すること、HSP70を阻害することでMint3を抑えた時と同様に抗がん剤がトリプルネガティブ乳がん腫瘍に効きやすくなることがわかった。
Mint3抑制<mTORシグナル低下<転写因子HSF-1活性低下<HSP70発現低下
続いて、なぜトリプルネガティブ乳がん腫瘍でMint3を抑制するとHSP70などの発現が低下するかについてメカニズムの詳細な解析を行った。Mint3は、低酸素に適応する際に重要な役割を果たすHIF-1という転写因子を活性化し、解糖系と呼ばれる酸素に依存しないエネルギー代謝を促進することが知られている。代謝産物の解析を行った結果、トリプルネガティブ乳がんは酸素・栄養の豊富な培養液中にいる状態に比べ、生体ではより解糖系に依存してエネルギーを作っていて、Mint3を抑えることでトリプルネガティブ乳がんのエネルギーが顕著に低下することが判明。このエネルギーの低下により、トリプルネガティブ乳がん腫瘍ではmTORシグナルが低下し、mTORシグナルにより活性化され、HSP70などのストレス耐性遺伝子の発現を促す転写因子HSF-1の活性が低下し、HSP70の発現が低下することがわかった。
トリプルネガティブ乳がん、より効果的な治療法開発に期待
今回の研究により、トリプルネガティブ乳がんの生体での抗がん剤抵抗性について、エネルギー代謝が重要な役割を果たすことが明らかとなった。また、その制御にMint3が関わり、Mint3を抑えることで、化学療法に抵抗性を示すトリプルネガティブ乳がんを化学療法が効くように変化させることができることがわかった。今回の発見により、Mint3を標的とした薬剤やその下流のイベントに関わる分子の阻害剤と細胞傷害性抗がん剤を併用することで、より効果的なトリプルネガティブ乳がんの治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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・関西医科大学 プレスリリース