子宮頸部の高度病変に由来した未熟化生細胞の形態学的特徴は?
杏林大学は12月18日、正常細胞に模倣した子宮頸部高度前がん病変の形態学的特徴を発見したと発表した。この研究は、同大保健学部臨床検査技術学科の大河戸光章准教授を代表とする、金沢医科大学産婦人科 笹川寿之教授、群馬パース大学 岡山香里准教授、保健学部健康福祉学科 照屋浩司教授、こころとからだの元氣プラザ婦人科 小田瑞恵部長、細胞診断部 石井保吉氏、藤井雅彦氏の共同研究グループ(保健学研究科博士前期課程 水野秀一氏、臨床検査技術学科3年 篠原瑠宇空氏を含む)によるもの。研究成果は、「Journal of Medical Virology」に掲載されている。
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子宮頸部に感染したHPVは持続感染によって前がん病変を発症し、さらには浸潤がんへ進行する可能性がある。特に日本においてはHPVワクチン接種推奨の中止期間が長引き、かつ検診参加率が低い中で、子宮頸がんが増加の一途をたどる現状はかなり深刻だ。したがって原因ウイルスを早期検出することが重要なため、世界的にHPV検査が子宮頸がん検診の一次スクリーニングの主要な方法となりつつある。一方、HPV検査で陽性の結果は判定された全ての女性に前がん病変や浸潤がんがあるわけではない。そのため、全てのHPV検査陽性者に対して精密検査(生検組織検査)は実施できない。
その理由として、精密検査が痛みや出血を伴う侵襲性の高い検査であることが挙げられる。そのため、次に精密検査をすべき女性をトリアージする目的で細胞診検査が行われ、前がん病変や浸潤がんに由来した細胞の有無を調べる。しかし、子宮頸部細胞診標本を再評価した最近の研究から、細胞診検査で偽陰性(高度の前がん病変があるにも関わらず、検査で陰性)が約20%あることが示された。検診に参加した女性にとって、高度病変が発見されなかったことは深刻な不利益だ。よって、細胞診が主観的な一面をもつ顕微鏡観察による検査であることを理由に責任から逃れることはできない。
細胞診検査で偽陰性となる原因の一つは、子宮頸部を擦過した検体中に病変に由来した細胞が あっても、正常細胞に模倣して形態学的に認識できない点にある。特に、未熟化生細胞は、ほとんどが正常に由来した細胞だが、その一部は高度病変に由来することが示されている。しかし、形態学的に高度病変に由来した細胞か否かを区別することは極めて困難なため、この細胞に対する細胞検査士間の診断誤差は大きく、偽陰性だけでなく偽陽性も起こり得ることが知られる。研究グループは今回、細胞診偽陰性の改善を重要な課題と考え、高度病変に由来した未熟化生細胞の形態学的特徴を明確にすることを目的に研究を行った。
独自手法で陰性未熟化生細胞との明確な形態学的差異を複数発見
研究グループは、生体組織検査によって得られた高度病変組織のHPV型と細胞診標本上の未熟化生細胞のHPV型との一致に基づいて、高度病変由来のHPV型が感染した未熟化生細胞の形態学的特徴を解析した。
この解析には多種のHPV型を高感度に検出するHPV検査法が必要だったため、研究グループは2018年にHPV検査法を開発した。また、細胞診標本上の細胞のHPV型を調べるためには標的となる細胞のみを顕微解剖法で単離する必要があるため、この手法も2021年に考案した。
両者を用いた独自のアプローチで解析した結果、未熟化生を模倣した高度病変由来細胞と病変に由来しないHPV陰性未熟化生細胞との間には明確な違いがあることを発見。具体的には、高度病変に由来した未熟化生細胞の核面積はHPV陰性未熟化生細胞よりも2倍以上大きいこと、また、核面積のバラつきが高度であることが明らかになった。
HPV陽性女性に対するトリアージ細胞診の「偽陰性率減少」に期待
細胞検査士は細胞診標本上の細胞を顕微鏡観察して核の大きさを捉えることには非常に慣れている。よって、未熟化生細胞を発見した際に、客観的に高度病変由来細胞か否かを診断することができるようになると考えられる。「本研究成果により、HPV陽性女性に対するトリアージ細胞診の偽陰性率の減少が期待される」と、研究グループは述べている。
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