臍帯由来の間葉系幹細胞による再生医療、効果的な投与方法や治療効果は不明
慶應義塾大学は12月19日、臍帯(へその緒)に含まれる幹細胞から作製したシート状の細胞組織(細胞シート)の治療効果を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学薬学部の長瀬健一准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されている。
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骨髄や脂肪組織に含まれる間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)は、サイトカインと呼ばれる治療に有効なタンパク質を多量に分泌するため、さまざまな難治性疾患に対して治療効果のある幹細胞として再生医療で用いられている。また、近年では、臍帯から採取された間葉系幹細胞が、分娩時に廃棄される生体組織から採取可能であり、臍帯組織が若い組織であるため細胞が高活性である事から、注目を集めている。しかし、臍帯由来の間葉系幹細胞は、検討例が少なく、生体への効果的な投与方法や治療効果などの報告例はなかった。
ヒト臍帯由来の間葉系幹細胞シート、間葉系幹細胞懸濁液を作製し検討
研究グループは、ヒト臍帯から採取した間葉系幹細胞を用いて、間葉系幹細胞シート、二種類の間葉系幹細胞懸濁液を作製し、マウスに移植することで、生体内での治療効果を調べた。間葉系幹細胞シートは、温度変化により細胞の接着性を制御する温度応答性培養皿を用いて作製した。表面にポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)という、温度に応答して親水性/疎水性を変化させる高分子を修飾させた培養皿に、臍帯由来の間葉系幹細胞を播種して、温度37℃で培養すると、間葉系幹細胞の増殖に伴って細胞同士が接着する。温度を20℃に下げると、培養皿表面の温度応答性高分子が親水性に変化し、シート状の細胞組織である間葉系幹細胞シートが回収できる。
間葉系幹細胞懸濁液は、酵素処理による方法、温度応答性培養皿を用いた温度制御の方法で作製した。酵素処理による方法では、培養皿に間葉系幹細胞を播種し、5日間培養して増殖させた後で、トリプシンによる酵素処理で細胞接着タンパク質を分解することで、個別の細胞が分散した幹細胞懸濁液を作製した。また、温度制御による幹細胞懸濁液の作製では、温度応答性培養皿に細胞を播種し、37℃で2日間細胞を培養し、細胞同士が接着しない状態で、温度を20℃に下げて細胞を回収した。酵素処理とは異なり、細胞外マトリクスが付着した状態で幹細胞懸濁液を調製できる。
マウスの皮下組織に移植、ヒト細胞シートは免疫系に排除されず28日後も生着
作製した間葉系幹細胞シートと二種類の幹細胞懸濁液をマウスの皮下組織に移植し、移植後の生着率をin vivoイメージングにより観察した。二種類の間葉系幹細胞懸濁液は、移植後、数日で体内から消失したのに対し、間葉系幹細胞シートは28日後でも生着している事が確認できた。これは、間葉系幹細胞シートは、細胞同士の接着が維持され、細胞シート底面に細胞外マトリクスが保持されているため、移植組織への生着を促進するためであると考えられる。さらに、ヒト組織由来の間葉系幹細胞シートがマウスの生体から排除されずに長期間に渡り生着している事から、臍帯由来間葉系幹細胞の免疫調節作用が効果的に働いている可能性がある事が推察された。
移植後28日目の細胞シート移植部位、HGF・TGF-β1分泌量が増加
そこで、間葉系幹細胞シートと二種類の間葉系幹細胞懸濁液の移植後28日目の移植部位でのサイトカイン分泌量を測定したところ、間葉系幹細胞シートを移植したマウスでは、二種類の間葉系幹細胞懸濁液を移植したマウスと比較して、肝細胞増殖因子(HGF)、形質転換増殖因子ベータ1(TGF-β1)などのサイトカイン分泌量が顕著に多い事がわかった。これは28日後に生着している間葉系幹細胞の量が多い事、生着した間葉系幹細胞の機能が高いためであると考えられる。
臍帯由来の幹細胞シート、効果的な幹細胞治療として期待
「本研究により、臍帯由来の間葉系幹細胞シートが高い生着率と多量のサイトカイン分泌を示す事がわかった。これにより、臍帯由来間葉系幹細胞シートの移植により効果的な幹細胞治療が期待できる」と、研究グループは述べている。
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