糖尿病の病因に深く関与すると考えられるアミノ酸異常、詳細な分子機序は不明
宮崎大学は12月15日、膵β細胞機能を制御する新規ペプチドNeuroendocrine regulatory peptide-4(NERP-4)を発見し、その結合タンパク質としてアミノ酸トランスポーターSLC38A2(SNAT2)を同定したと発表した。この研究は、同大医学部医学科生体制御医学研究講座の張維東特別講師、迫田秀之特別准教授、医学部医学科機能制御学講座の三浦綾子助教(研究当時 内科学講座神経呼吸内分泌代謝学分野)、中里雅光名誉教授(大阪大学蛋白質研究所特任教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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2型糖尿病は、世界中で患者が増え、その合併症が大きな社会問題となっている。インスリン分泌不全とインスリン抵抗性を来す複数の遺伝的素因に加えて、食事、運動やストレスなどの環境因子、さらに加齢に伴って発症する。高脂肪食や過食が続くと、インスリンを産生分泌する膵臓のβ細胞で糖脂肪毒性による酸化ストレスや小胞体ストレスが亢進して、ミトコンドリア機能の障害から膵β細胞機能不全が生じている。
膵β細胞でグルタミン、アラニン、アルギニンなどはインスリン分泌を促進する。低グルタミン血症や分子鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)高血症は、糖尿病の発症リスクとなり、アミノ酸異常は糖尿病の病因にも深く関与している。しかし、アミノ酸異常が糖尿病の病因となる詳細な分子機序はわかっていない。
膵β細胞でインスリン分泌を亢進させる新規ペプチドNERP-4を同定
研究グループは、膵β細胞でグラニンタンパク質VGFから産生される19アミノ酸の新規ペプチドNERP-4を発見した。NERP-4は、膵β細胞のミトコンドリア内ATP産生から細胞内Ca2+上昇を介して、インスリン分泌を亢進した。NERP-4はインスリンと同じ分泌顆粒中に存在し、グルコース刺激で分泌されてオートクリンとして作用した。
NERP-4、アミノ酸トランスポーターSNAT2と結合しグルタミン・アラニン取り込み増加
次に、NERP-4が結合する膜タンパク質をLRC-TriCEPS法で探索し、アミノ酸トランスポーターであるSNAT2を同定した。NERP-4は、SNAT2のポジティブアロステリックモジュレーターとして、グルタミンやアラニンの取り込みを増やした。アミノ酸トランスポーターを活性化する内因性分子の同定は、NERP-4が世界で2番目である。
糖尿病マウス膵島、NERP-4投与でインスリン分泌増・耐糖能改善
糖尿病モデルであるdb/dbマウスの膵島では、NERP-4の発現量が低下していた。db/dbマウスにNERP-4を2週間投与すると、インスリンの産生分泌が増加し耐糖能が改善した。パルミチン酸刺激した膵β細胞由来MIN6-K8細胞にNERP-4を投与すると、酸化・小胞体ストレスが軽減し、ミトコンドリアダイナミクスが亢進して、膵β細胞機能が改善した。NERP-4がアミノ酸取り込みを増やして、ミトコンドリアのATP産生を増やすとともに、グルタミン代謝物のグルタチオン産生が増加し抗酸化作用を示すことを明らかにした。
アミノ酸代謝・輸送関連の分子、糖尿病の病態マーカーや治療薬につながる可能性も
今回の研究では、グルコースとアミノ酸の変動に対応して、NERP-4とSNAT2が膵β細胞機能を制御する新規の分子機構が提唱された。「今後、SNAT2とNERP-4の結合部位を特定し、NERP-4結合がSNAT2の立体構造に与える影響を解析して、アミノ酸トランスポーターの活性を制御する新規の分子機構を明らかにすることを目指す。さらに、ヒトの糖尿病におけるNERP-4やSNAT2の発現量や活性を測定して、アミノ酸の代謝や輸送に関連する分子を標的とした糖尿病の病態マーカーや治療薬の開発を進める。本研究で活用した研究技術を駆使して、他のインスリン分泌調節ペプチドの標的タンパク質の同定も行う」と、研究グループは述べている。
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