高齢者の多くが自宅生活を希望、早期の在宅復帰支援を要する患者の特定が必要
東京都健康長寿医療センター研究所は12月13日、入院した65歳以上、約9,000人のレセプト(診療報酬明細書)情報を分析し、長期療養施設への退院リスクを検討したと発表した。この研究は、同研究所の石崎達郎研究部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Archives of Gerontology and Geriatrics」に掲載されている。
高齢者の7割以上は日常的に医療や介護が必要になっても自宅で生活することを希望しているが、高齢入院患者では長期療養施設への退院が増加する。そのため入院後早期に長期療養施設への退院リスクのある患者を特定し、入院早期からの在宅復帰支援が必要となる。入院時に認知機能や日常生活動作(ADL)が低下していることは長期療養施設への退院リスクが高いと考えられるが、これらの関連については検討が不十分だった。そこで、研究グループは在宅から入院した高齢患者を対象に、認知機能やADLと長期療養施設への退院との関連を検討した。
DASC-8を用い、認知機能とADL低下を3つの重症度に判定
認知機能とADL低下の重症度評価には、DASC-8を用いた。DASC-8は、認知機能とADLから認知症を検出し、重症度を評価するアセスメントツールであるDASC-21の21項目のうち、8項目を使ってより簡便に認知機能とADLの重症度を評価する。DASC-8はそのスコアに応じて3つの重症度(カテゴリーI~III)に判定される。カテゴリーIは、認知機能が正常でADL自立、カテゴリーIIは、軽度認知障害~軽度認知症で手段的ADL(家事や交通機関の利用などの複雑な日常生活動作)が低下、カテゴリーIIIは中等度以上の認知症で基本的ADL(移動や入浴など基本的な日常生活動作)が低下と分類される。
最も重症のカテゴリーIII、Iよりも長期療養施設への退院リスクが2.8倍高い
分析対象者は同センターに入院した65歳以上の高齢入院患者9,060人(平均年齢79.4歳)である。DASC-8によって評価された認知機能とADL低下の重症度は、カテゴリーIが62.3%(5,640人)、カテゴリーIIが18.6%(1,681人)、カテゴリーIIIでは19.2%(1,739人)だった。長期療養施設へ退院した患者は、分析対象者の1.2%(112人)だった。認知機能とADL低下の重症度別に長期療養施設への退院患者の割合をみると、カテゴリーIは0.3%、カテゴリーIIで1.1%、カテゴリーIIIでは4.5%だった。性別や年齢などの要因の影響を統計学的に除いても、カテゴリーIIIはカテゴリーIよりも長期療養施設への退院リスクが2.8倍高いことが認められた。
中等度以上の認知症とADL低下、優先的な在宅復帰準備や予防策提供の指標となる可能性
今回の研究の重要な点は、中等度以上の認知症やADL低下のある高齢入院患者では、入院直後から在宅復帰準備を講じることで、長期療養施設への退院を予防できる可能性のあることを示したことである。また、病院と長期療養施設との間で、患者に関する情報(処方薬やADLなど)を共有することで、長期療養施設に退院後の有害事象が予防できると報告されている。「DASC-8で特定した中等度以上の認知症とADL低下のある高齢入院患者は、入院時から在宅復帰の準備や長期療養施設へ退院直後の有害事象に対する予防策を優先的に提供する必要性が高い人々であると考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース