母親の妊娠前期の血中PFAS濃度と子の4歳時ぜん鳴・ぜん息症状との関連は?
信州大学は12月12日、子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)の約1万8,000組のデータを対象として、母親の妊娠中の血中有機フッ素化合物(PFAS)濃度と生まれた子どもの4歳時における「ぜん鳴」および「ぜん息」症状の有無との関連について解析した結果を発表した。この研究は、エコチル調査甲信ユニットセンター(信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室)の野見山哲生教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Research」に掲載されている。
エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査だ。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯などの生体試料を採取して保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質などの環境要因との関係を明らかにしている。
同調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施している。
妊娠中や生後の化学物質へのばく露は、ぜん息のリスク因子の一つとして考えられている。化学物質のうち、有機フッ素化合物(PFAS)は免疫系への影響を生じることが知られているが、PFASのばく露と小児のぜん息症状の有無との関連ははっきりとわかっておらず、ヒトを対象とした研究でも結果が一致していなかった。そこで研究グループは今回、母親の妊娠前期の血中PFAS濃度と生まれた子どもの4歳時におけるぜん鳴・ぜん息症状の有無との関連を疫学的な手法を用いて調べることにした。
約1万8,000組のデータを解析、明確な関連見られず
研究では、エコチル調査に参加する約10万組の母子のうち、母親の妊娠中の血中PFAS濃度が測定されている約2万5,000組の母子のデータを使用。その中から、今回の解析に必要なデータが揃った1万7,856組のデータを使用した。
子どものぜん鳴・ぜん息症状の有無については、4歳時点での質問票の回答を用いた。PFASについては、6種類のPFAS(PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PTHxS、PFOS)を分析対象とした。子どものぜん息症状の有無の関連因子として考えられている母親の年齢、BMI、母親のぜん息、教育歴、喫煙歴、世帯収入、出産回数の影響も考慮した上で、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴・ぜん息症状の有無との関連について、ロジスティック回帰分析で検討を行った。
その結果、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無との間に明確な関連は見られなかった。ばく露反応曲線は直線で、ほぼ平坦な直線が見られた。
子どもの性別・母親のぜん息の有無による違いも見られず、長期的な影響は調査が必要
子どもの性別および母親のぜん息の有無による明確な関連の違いも見られなかった。また、地域による関連の不均一性が見られたとしている。
本研究では、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無との間に明確な関連は見らなかった。しかし、長期的な影響については今後の研究が必要だと、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・信州大学医学部 トピックス