PA患者の半数以上は副腎手術により高血圧が治癒
千葉大学は12月12日、高血圧患者の約10%に当たる「原発性アルドステロン症」について、一般的な診療情報の機械学習を応用した独自のアルゴリズムを開発し、原発性アルドステロン症(PA)患者のうち、超選択的副腎静脈採血(sAVS)による診断が必要な人を35%まで絞り込むことに成功したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の北本匠助教、IBM Researchの井手剛博士、横浜労災病院の西川哲男名誉院長、鶴谷悠也部長、東北大学大学院医学系研究科病理診断学分野の佐藤文俊客員教授、東北大学病院糖尿病代謝・内分泌内科の手塚雄太医員、市立札幌病院和田典男部長の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Report」に掲載されている。
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現在、日本人の3人に1人が高血圧を患い、健康寿命に大きな影響を与えている。重症の高血圧 (難治性高血圧)の20%以上の原因は、副腎から出るホルモン異常による病気のPAであることがわかっている。PAを有する半数以上は、副腎手術により高血圧が治り、健康寿命を取り戻すことが可能。漫然と薬による治療をするのではなく、「治せる高血圧」を正確に見つけることは病気から健康を取り戻すために極めて重要だ。
sAVSによる診断、実施可能施設が限定的という課題
研究グループはこれまでに「超選択的副腎静脈採血」(sAVS)という診断技術を開発してきた。sAVSは、通常の副腎静脈採血に加え、副腎中心静脈より奥にある副腎の上部、外側、内側、下側といった区域ごとに分岐する血管から採血を行う技術。この技術により通常の副腎静脈採血よりも高精度に、手術治療が可能な患者をより多く診断可能となる。しかし、この技術は現状、日本でのみ、しかも限られた施設でしか利用できない。このため、遠方の患者の負担は大きく、場合によっては、検査を受けられずに手術治療の機会を逸してしまう可能性があった。
機械学習による診断予測モデルを開発、sAVSが必要な患者を35%にまで絞り込み成功
研究グループは、はじめに、sAVSが利用可能な3つの施設の診療情報を分析し、従来法に比べて、手術により治療可能な患者を多く発見できていることを確かめた。次に、施設間の診療情報のばらつきを機械学習によりパターン学習させ、個人ごとのデータの特徴から個々人に応じた欠損値補完を補い、施設を超えて使用可能な診断予測モデルを開発した。その際、「Adaptation-classification framework」という機械学習を利用した。
開発した診断予測モデルの有用性を確かめたところ、94%という非常に高い精度でsAVSの診断手順をスキップし、手術や薬による治療を受けることができる患者を予測した。最終的に、診断にsAVSを必要とする患者を35%にまで絞り込むことに成功した。
地域・施設間差をなくし、個々人に応じた最適な高血圧治療の実現に期待
医学研究は、診断・治療を軸とした患者診療の発展に貢献するために行われている。しかし、地域や施設が異なれば、行われている診療も異なるのが現状だ。診断予測モデルの作成には、診断が正確であること、そして、現実世界の不均一な診療状況に適応できることが求められる。今回は、sAVSという正確な診断技術を持つ施設同士で協力できたこと、機械学習の専門家によりTransfer Learningという技術を用いて、施設間の不均一性に柔軟に対応する独自の分類モデルを開発できたことの2点が成功の鍵となった。「この成果が「治せる高血圧患者」を1人でも多く見つけ出し、個々人に応じた最適な高血圧治療、個別化医療の実現へ貢献することを期待している。引き続き多くの患者の命を守る診断・治療法の開発を目指していきたい」と、研究グループは述べている。
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