母親の飲酒など出生前ストレス因子暴露児の神経行動障害、早期診断手法が必要
東京医科大学は12月6日、機械学習を用いた末梢血単核細胞の選択的スプライシングによる運動学習障害を予測する新たな手法を発見したと発表した。この研究は、同大糖尿病・代謝・内分泌内科学分野の佐々木順子助教、菅井啓自臨床研究医、李国姣研究員、鈴木亮主任教授、小田原雅人兼任教授、産科婦人科学分野の佐々木徹講師らは、米国Children’s National Medical Center Center for Neuroscience Research Dipankar J. Dutta博士、Masaaki Torii博士、Kazue Hashimoto-Torii博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。
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母親の飲酒や糖尿病などの出生前ストレス因子に暴露されて生まれた児では神経発達障害の危険が増すことが知られているが、障害の重症度は暴露期間や暴露量と必ずしも相関しないことが知られている。児の神経行動障害への早期診断、早期介入のためには障害を正確に同定・予測できる生物学的バイオマーカーや手法の解明が必要とされているが未解明の状態だ。そこで、研究グループは軽微な侵襲で採取可能な末梢血単核球(PBMC)を用いて、解明を目的として同研究を立案した。
末梢血サンプルからリンパ球抽出、mRNAの選択的スプライシングイベント(AS)を探索
研究グループは、CD-1マウスに薬剤を投与し、出生前アルコール暴露モデルマウス(PAE)および出生前糖尿病暴露モデルマウス(OMD)を作製した。これらのモデルマウスを用いて、青年期に相当する30日齢に、加速する回転棒装置(ローターロッド)を用いて運動学習能を評価した。運動学習能評価後に末梢血サンプルからリンパ球(T細胞、B細胞、単球)を蛍光活性化セルソーティング(FACS)にて抽出し、RNAseqを行い、5種の選択的スプライシングイベント(AS)についてrMAT(replicate multivariate analysis of transcript splicing)を用いて有意なものを同定した。
出生前ストレス暴露マウス、運動学習障害の予測因子として29のAS同定
結果、PAEとOMDで共有する有意なASはT細胞で13個、B細胞で16個、単球で1個確認された。ディープラーニングモデルのLong Short-Term Memory(LSTM)を用いて、PBMCのRNA配列データを解析。PAEとOMDにおける運動学習障害の正確な予測因子として、PAEとOMDで共有する29個の主要遺伝子におけるASを同定した。また、Shapley-value分析を用いて、適切に訓練されたLSTMモデルを解釈し、運動学習障害の予測に対する29個のバイオマーカーの相対的な寄与を裏付けた。
末梢血単核球のAS、脳の初期発達に影響を与える可能性
ASは初期脳発達の重要なドライバーだ。PBMCにおけるASが発達中の脳の同じ遺伝子に同様の影響を与え、脳の初期発達に直接影響を与える可能性がある。Gene Ontology解析において神経発達への影響が報告されているIL-17シグナル伝達経路でのエンリッチメントを認めており、同研究で同定されたAS事象は、認知の発達と機能に寄与している可能性が高い。その破綻がアルコール、糖尿病やその他の出生前ストレス因子に暴露した小児の認知機能障害の根底にある可能性が示された。
今後、運動発達以外の予測やヒトサンプルでの検討予定
今回の検討で使用したPBMCのmRNAにおけるASによる機械学習モデルを用いた運動発達障害程度の予測は、その他のさまざまな不利な条件下で誕生した児の疾病発症予測のテンプレートとなりうると考えられる。他条件下での検証のみならず、今後は運動発達以外でも予測可能かどうかの検証、さらにはヒトサンプルを用いた検討を予定している、と研究グループは述べている。
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