大人も抱きしめられるロボット「Moffuly-II」を開発、抱きしめ動作の効果を検証
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は12月6日、大人も抱きしめられる大型のロボット「Moffuly-II」を開発し、抱きしめている間の動作がヒトに及ぼす効果を検証した結果を発表した。この研究は、ATRの大西裕也専任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Social Robotics」に掲載されている。
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触れる、抱きしめる、キスするといった他者との触れ合いは、信頼や愛情を育むために欠かせない行為だ。触れ合いはさまざまな観点からヒトにとって効果的だが、COVID-19で物理的な分離が生じてしまったように、誰もがその恩恵を受けられるわけではない。この問題を解決するために、ヒト同士の触れ合いを代替するソーシャルロボットの研究開発が進んでいる。過去の研究では、ストレス緩衝や自己開示の促進など、例え相手がロボットであっても、触れ合うことで親しい関係を育めることが報告されている。また、親密な関係を持つ人々は、抱擁が親密な感情を伝え、抱擁中の動作として他人の顔や頭に触れることがわかっている。
しかし、ヒトを抱擁するロボットの研究は行われてきたが、抱きしめる際に頭を触る動作にはあまり重点が置かれていなかった。そこで研究グループは今回、「抱擁中にロボットがヒトの頭に触れる場合、どのような動作が効果的なのか」という研究課題に取り組んだ。
「なでる場所+動作」を変えた4通りの抱擁を体験してもらい、印象を比較
ヒト同士の触れ合いを分析した研究では、なでる動作の重要性が報告されている。一方、抱擁ロボットを使った別の研究では、なでるよりもぎゅっとする動作の方が効果的であると報告されている。これらの仮説のもと、抱擁中の動作を比較した際に「なでる動作/ぎゅっとする動作」で、ロボットの印象を好意的に感じるのではないかという、触れる動作について相反する2つの予測を立てた。
また、過去の研究では頭を触れることの重要性が一貫して強調されていた。ヒト同士の触れ合いでは、親密な関係で他人の頭に触れることが示されている。また、ヒトとロボットの触れ合いでは、ロボットが親密な関係を表出するときにヒトがロボットの頭に触れることが示されている。これらの研究より、ロボットがヒトの頭部に触れた場合でも効果的だと考えられた。したがって、ロボットとの抱擁中、ヒトは背中に触れられるよりも頭に触れられることを好むのではないか、という「触れる場所」に関する予測を立てた。
この予測を調べるため、30人(男性15人/女性15人)を対象に、場所(背中/頭)と動作(ぎゅっとする/なでる)の4通りの組み合わせを比較する実験を行った。それぞれの抱擁時間は約10秒で、そのうち3秒間の付随動作が含まれていた。また、会話の影響を避けるためにロボットと静かに抱き合ってもらった。参加者は4通りの抱擁を全て体験し、印象をアンケートで回答した。
「頭をなでる」動作が最も効果的、なで動作の違いによる印象の違いも判明
その結果、その結果、抱きしめている間にぎゅっとするよりもなでる方がより愛着を感じられること、背中よりも頭をなでることでロボットが自身をより助けてくれる存在であると感じられることが判明した。これらは、なでるよりもぎゅっとする動作が効果的であるという過去の抱擁ロボットの研究とは逆の結果であり、この違いがなでる動作の設計に起因していると考えられた。
過去の研究は、なで上げる動作となで下げる動作の両方が含まれていた。一方、Moffuly-IIのなで動作は、髪や衣服を乱さないようになで下げ動作のみを採用していた。このなで動作の違いが、体験者にポジティブな印象を与えた可能性があるとしている。
ヒトと触れ合うロボットの振る舞い設計に役立つ可能性
今回の研究成果により、抱きしめながら頭をなでる動作を受けることで、ロボットに愛着を感じてもらえることが示された。関連研究では、ロボットがヒトを抱きしめることで、ヒトにとって良い行動変容を引き起こすことが報告されている。そのため、ロボットが抱きしめながら頭をなでることで、より良い行動変容が起こる可能性を示唆している。「本知見は、ヒトと物理的に触れ合うロボットの振る舞い設計に役立つと期待される」と、研究グループは述べている。
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・国際電気通信基礎技術研究所 プレスリリース