乳酸リンゲル液に低温プラズマ照射の「PAL」、がんへの有効性報告
名古屋大学は12月5日、プラズマ活性化乳酸リンゲル液(Plasmaactivated Ringer’s Lactate Solution:PAL)が鉄依存性細胞死フェロトーシスを引き起こし、口腔がんの進行を抑制することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科顎顔面外科学の佐藤康太郎助教、日比英晴教授ら、同大大学院医学系研究科生体反応病理学の豊國伸哉教授、神戸大学大学院医学系研究科文士細胞生物学の鈴木聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Oral Diseases」に掲載されている。
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口腔がんは全がん腫において約1~2%と少ないものの、再発率は比較的高く、解剖学的特徴からもQOLの低下に直接結びつく。そのため、副作用が少ない新規治療法を開発することが重要だ。
低温プラズマが正常組織に傷害を与えず、がん特異的に作用することが見出されたことから、近年プラズマ医療が加速している。その中でも2016年頃から点滴として頻用される乳酸リンゲル液に低温プラズマを照射してできたPALのがんへの有効性が報告されている。その機序として、がん細胞に触媒性二価鉄が多く含まれることが影響していると考えられている。また、口腔がんの進行時にがん周囲に形成されるコラーゲンが深く関わっていることが報告されている。
口腔がん細胞にPAL投与、低濃度で殺細胞効果・フェロトーシス・LOX低下を確認
今回の研究では高エネルギーのプラズマを乳酸リンゲル液に照射したPALを用いて、口腔がんに対する効果を鉄とコラーゲンに着目して検討することを目的とした。
口腔がん細胞と正常細胞を用いて、PALによる細胞生存率、遊走、浸潤能の変化および細胞死の種類を評価した。In vitroではPAL投与により、口腔がん細胞では正常細胞と比較して低濃度で殺細胞効果を示し、遊走および浸潤能の減弱が見られた。またフェリチン、フェロポーチン(FPN)の低下、脂質過酸化、ミトコンドリアの形態変化などがみられ、フェロトーシスが起こっていることを確認した。また、Lysyl oxidase(LOX)の有意な発現低下が見られた。LOXは、コラーゲンクロスリンクを増加させる作用があり、腫瘍や周囲環境を硬くすることで腫瘍が増殖・浸潤しやすい環境に変化させる。
モデルマウスでもLOX発現低下、コラーゲン形成抑制、フェロトーシス確認
In vivoでは神戸大学より譲渡された口腔がんモデルマウスを用いてPALの効果を検討した。PAL投与により発がんが抑制され、生存率は有意に延長。組織学的にLOXの発現低下およびコラーゲンの形成抑制が見られ、さらにフェロトーシスが引き起こされていることを確認した。
以上より、PALは口腔がん細胞に対してフェロトーシスを引き起こし、さらにコラーゲンの形成を抑制することで転移を抑制させる可能性が示唆された。
口腔がん、副作用が少なく長期使用可能な新規治療法確立を目指す
今回の研究では、PALが口腔がん細胞に対してフェロトーシスを引き起こし、コラーゲンクロスリンクの形成を抑制することで進行を抑制する可能性が示された。同研究をもとに、口腔がんに対して副作用が少なく、より長期に使用可能な新規治療法の確立を目指す、と研究グループは述べている。
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