降圧や臓器保護作用で広く利用されるRAS阻害薬、過剰な阻害は有害事象と関連
横浜市立大学は12月4日、高血圧の発症に関与する経路の中で重要な役割をするレニン-アンジオテンシン系(RAS)に関する研究で、miRNAの1種であるmiR-125a-5p/miR-125b-5p(miR-125-5p)の阻害がAngiotensinII(アンジオテンシンII:AngII)受容体(AT1R)のシグナル伝達を抑制することを解明したと発表した。この研究は、同大附属病院腎臓・高血圧内科の廣田慧悟医師(大学院医学研究科病態制御内科学博士課程4年)、循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一教授、涌井広道准教授、琉球大学大学院医学研究科先進医療創成科学講座の山下暁朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」に掲載されている。
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高血圧は、世界中で最も一般的な合併症のひとつであり、2010年には世界の成人人口の31.1%(13億9000万人)が高血圧であることが報告されている。高血圧は多くの臓器に影響を及ぼし、心血管疾患を含むさまざまな健康問題を引き起こす。RASは高血圧の発症に関与する経路の中で、重要な役割を果たしている。特に、AT1Rシグナル伝達経路は、動脈収縮、尿細管ナトリウム再吸収、鉱質コルチコイドであるアルドステロンの放出、インスリン抵抗性の誘導に直接影響する。また、局所におけるAngII-AT1Rシグナル伝達経路の活性化は、高血圧、酸化ストレスに関連する腎疾患、線維化状態の発症に寄与している。そのため、RAS阻害薬は、その降圧作用や臓器保護作用により、重要な薬剤として広く利用されている。しかし、RASの過剰な阻害は、低血圧、高カリウム血症、腎障害などの有害事象と関連するなど課題もあり、これらを解決した新たな治療法の確立が望まれている。
AT1Rの病的な活性化だけを抑制可能なATRAP、その発現制御機構は不明だった
研究グループは、AT1R結合タンパク質としてAT1R associated protein(ATRAP)を同定し、ATRAPがAT1Rシグナルの過剰活性化を抑制することを示してきた。また、ATRAPが、AT1Rの生理的シグナル伝達に影響を与えることなく、AT1Rの病的活性化を抑制することを、高血圧を含むさまざまなAngII-AT1Rシグナルを介する病態モデルマウスを用いて明らかにしてきた。しかし、ATRAPの発現制御機構については、十分にわかっていなかった。
miR-125-5p阻害剤、事前にATRAP蓄積させAngII-AT1Rシグナル活性化を抑制
今回研究グループは、ATRAP発現を直接制御する因子としてmiRNAに着目し、ヒトとマウスで共通に働くmiR-125-5pを同定した。miR-125-5pの阻害剤を用いた解析により、定常状態のマウス遠位尿細管細胞株(mDCT)において、miR-125-5p阻害がATRAP mRNAとタンパク質の蓄積を誘導することを明らかにした。さらに、miR-125-5p阻害により、ATRAPを蓄積させることでAngIIによるAT1Rシグナル活性化を抑制できることを発見した。
また、これらの発見と並行し、mDCT細胞において、AngII刺激によりATRAP mRNAが増加する一方で、ATRAPタンパク質が低下することを明らかにした。さらに、AngII刺激によりmiR-125a-5pとmiR-125b-5pの発現が共に低下することを見出し、AngII刺激によるATRAP mRNAの増加がmiR-125-5pの発現低下によるものであることを明らかにした。一方、ATRAPタンパク質の低下は、AngII刺激により活性化されたプロテアソームによるものであることも解明した。
上述のことから、miR-125-5pの阻害により、事前に定常状態でのATRAPの蓄積を誘導しておくと、AngII-AT1Rシグナルの活性化が抑えられるため、AngII依存的なATRAPの発現低下が起きなくなることも明らかにした。
ATRAP以外にも作用した可能性はあるが、新たな治療戦略として期待できる
今回の研究によりmiR-125-5p阻害剤がATRAP発現促進を介してAT1Rシグナル伝達を抑制可能であることを示した。miRNAはその性質上、ATRAP以外のターゲットにも作用して、この結果をもたらした可能性も考えられる。実際に、miR-125bの阻害がマウス心虚血再灌流により生じるAT1Rシグナル依存的な心線維症を複数の標的mRNAの阻害を介して抑制することも報告されている。
「miR-125-5p阻害剤は、AngII関連疾患に対する新たな治療戦略となると期待される」と、研究グループは述べている。
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