従来の食物経口免疫療法、体調不良やアナフィラキシーなどの課題
国立成育医療研究センターは12月5日、鶏卵もしくは牛乳の食物アレルギーがある子ども(4歳~18歳)に対し、食物経口負荷試験の閾値をもとに5つの方法(A~E群)で経口免疫療法を行い、閾値の100分の1量から開始し、10分の1量で維持する方法が、従来の方法よりも2回目の食物経口負荷試験の閾値上昇人数の割合が高く、重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシー症状が出現することなく、症状が出現しても軽微なものに限られているということがわかったと発表した。この研究は、同センターアレルギーセンターの大矢幸弘氏、福家辰樹氏、山本貴和子氏、宮地裕美子氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Experimental Allergy」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
食物経口免疫療法は、これまで完全に除去するしかなかった重症な子どもにとっては有用な治療法と考えられている。しかし、最適な量や安全性が確立しておらず、一般診療でどこでも実施できるものではない。また摂取量や体調不良、摂取後の運動などによりアナフィラキシーなどの重篤症状も含むアレルギー症状が誘発されることがあり、大きな課題となっていた。そこで研究グループは、より安全かつ有効な経口免疫療法の方法を検討することを目的に研究を行った。
1回目の食物経口負荷試験の閾値をもとに5つの方法を検討
研究対象は、鶏卵もしくは牛乳の食物アレルギーがある4歳~18歳未満の217人。同センターの外来を受診し、1回目の食物経口負荷試験を受けた後、食物経口負荷試験の閾値をもとに5つの方法(A~E群)で経口免疫療法を行い、経口免疫療法中のそれぞれの方法の安全性と有効性について電子カルテデータを用いて分析した。5つの群は、以下の通りに分けられた。A群「超極微量開始維持法」は、閾値の1万分の1量から開始し、最大10分の1量で維持。B群「極微量開始維持法」は、閾値の100分の1量から開始し、最大10分の1量で維持。C群「微量開始維持法」は、閾値の10分の1量から開始し、最大10分の1量で維持。D群「従来法」は、閾値に近い量から開始し、2~3週ごとに1.2~1.5倍など徐々に増量。E群は完全除去とした。
閾値の100分の1量から開始、10分の1量で維持する方法が高い効果
研究の結果、A~C群の微量開始維持群は、D群の従来法よりも有害事象を経験した人数の割合が有意に少なく(A群24.2%、B群13.7%、C群29.4% vs. D群70.5%)、微量開始維持群のほとんどすべての有害事象が口やのどのかゆみなどの軽微な症状であり、アナフィラキシーは認められなかった。しかし、D群の従来法では、アナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。またB群の極微量開始維持法はD群の従来法よりも2回目の食物経口負荷試験の閾値上昇人数の割合が高く(B群88.2% vs. D群56.8%)、食物特異的IgE値が上昇した人数の割合は、B群の極微量開始維持法(93.8%)がE群の完全除去(61.1%)より多かったということがわかった。 以上から、従来法よりも微量開始維持群の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された。
実臨床ではアレルギー診療を熟知した専門医が慎重に行うことが重要
今回の研究により、即時型食物アレルギーの子どもが、閾値より低い微量の部分解除の方法で安全かつ有効に経口免疫療法に臨むことができる具体的な量の目安が示された。ただし、食物アレルギーはアトピー性皮膚炎や喘息などその他のアレルギー疾患との関連性が高く、同センターでは経口免疫療法を行う際、湿疹の治療をはじめその他のアレルギー疾患のコントロールを徹底して行っており、実臨床で行う場合にはその点にも十分配慮をして行われる必要がある。また、研究の微量開始維持群でも軽微とはいえ経口免疫療法中に症状が出現している。「この研究で行われた治療法をそのまま実臨床で行うのではなく、患者の症状や重症度、その他の合併症の症状などにあわせ、アレルギー診療を熟知した専門医が症状出現時の救急対応に万全を期した上で、慎重に行われることが求められる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・成育医療研究センター プレスリリース