サッカーのヘディングが脳機能の低下に関連
サッカーのヘディングの危険性を示すエビデンスが増え続けている。米コロンビア大学放射線学教授および生物医学工学分野のMichael Lipton氏らは、サッカーのヘディングにより測定可能な脳の構造が変化し、機能が低下することを示した2件の研究結果を、北米放射線学会年次総会(RSNA 2023、11月26~30日、米シカゴ)で発表した。
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Lipton氏は、「脳損傷全般、特に、サッカーのヘディングが長期にわたって脳に悪影響を与える可能性については、世界的に大きな懸念がもたれている。そうした懸念の大部分は、若年期の脳の変化が中年期以降の神経変性や認知症のリスクをもたらす可能性に関係している」と説明している。
これまでの研究は、ある時点での脳への悪影響を調べたものであったが、Lipton氏らは今回の研究の一つで、2年にわたる脳の変化に着目した。研究では、148人のアマチュアサッカー選手(平均年齢26.7歳、女性25.6%)に、練習も含めサッカーをプレーする機会やヘディングの頻度について質問し、その回答に基づき、ヘディング曝露レベルを低度(0〜556回)、中程度(564〜1,512回)、高度(1,538〜2万3,462回)に分類した。これらの選手は、研究登録時とその2年後に、言語学習能力と記憶力の評価と拡散テンソル画像法(DTI)による脳画像検査を受けた。DTIは最新のMRI装置を用いた画像検査法で、脳組織内の水分子の拡散の程度を測定するものだ。
その結果、ヘディングに高度に曝露した人では、研究開始時と比べて脳の白質の微細構造に変化が生じていることが明らかになった。高度曝露はさらに、統計学的に有意ではないが、言語学習能力の低下と関連していることも示された。
Lipton氏は、「われわれの解析から、2年間のヘディングの曝露レベルが高度であることは、軽度の脳損傷で生じるのと同様の脳の微細構造の変化に関連していることが明らかになった。また、ヘディングの曝露レベルが高度であることは言語学習能力の低下とも関連していた。これは、脳震盪のような症状を引き起こさない程度の頭部への反復的な衝撃に関連する、長期にわたる脳構造の変化を示した初めての研究だ」と述べている。
ヘディングによる頭部への反復的な衝撃と言語学習能力の関連についてのもう一つの研究では、18~53歳のアマチュアサッカー選手353人(女性27%)を対象に、DTIを用いて脳の頭蓋骨に近い白質と灰白質の境界部分を調べた。Lipton氏は、「この脳領域は、調査方法に限界があったために見過ごされてきたが、損傷リスクのある領域だ。DTIを使うことで、反復的なヘディングだけでなく、脳震盪や外傷性脳損傷による損傷の程度を、これまで不可能であったレベルで明らかにすることができる可能性がある」と説明している。
その結果、DTIによって、正常な脳であれば明瞭に示される白質と灰白質の境界部分が、頭部に衝撃が反復的に加わることで不明瞭になることが示された。Lipton氏は、「さまざまな脳障害において、通常は明確に区別できるこれらの脳組織の境界部分がぼやけて不明瞭な状態に変化する。この研究で認められた白質と灰白質の境界の統合性は、頭部への反復的な衝撃と思考力低下の関連を説明する要因の一つである可能性がある」と付け加えている。
その上で、Lipton氏は、「今回の研究結果は、サッカーのヘディングが無害なのか、あるいは重大なリスクをもたらすのかをめぐって続いている議論と論争に新たな情報をもたらすものだ」と述べている。
なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。
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