シロスタゾール、動物実験でβアミロイド脳外排出作用
国立循環器病研究センターは12月5日、軽度認知障害(Mild cognitive impairment:MCI)患者を対象とした日本初の多施設共同プラセボ対照ランダム化医師主導治験「COMCID研究」の結果を発表した。この研究は、同研究センター脳神経内科の猪原匡史部長、脳神経内科の齊藤聡医師、データサイエンス部の山本晴子部長ら、一般財団法人LHS研究所福島雅典代表理事(京都大学名誉教)、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構の小島伸介チームリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。
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日本における認知症患者数は500万人を超え、MCI患者もその同数程度に達すると推定されており、その進行を阻止する手法の開発が世界中で行われている。研究グループは、抗血小板薬シロスタゾールが、血管に直接作用することでβアミロイドを脳外に流し去る作用を有することを動物実験で見出した。しかし、シロスタゾールがMCIから認知症への進行の予防に有効かどうかはヒトでは明らかでなかった。
シロスタゾール96週投与、全国多施設共・同医師主導治験「COMCID研究」
研究グループは、MCI患者を対象とした全国規模、多施設共同での「軽度認知障害患者に対するシロスタゾール療法の臨床効果並びに安全性に関する医師主導治験(COMCID研究)」を2015年5月より開始。MCI患者にプラセボもしくはシロスタゾールが96週投与された。
認知症予防の有効性は示されなかったが、βアミロイド脳外排出促進の可能性
同治験の結果、シロスタゾールをMCI患者に投与した際の安全性が示された。一方、MCIから認知症への進行を予防する有効性は示されなかった。しかし、シロスタゾールを投与した患者では、プラセボを投与された患者に比べ、血液中のアルブミンとβアミロイドの複合体(アルブミン-Aβ複合体)の濃度が、治療前に比べ増加する傾向が示された。これは、シロスタゾールが脳内のβアミロイドを血液中に排出することを促進させた可能性が考えられ、過去の動物実験の結果と符合した。
今後、シロスタゾールレスポンダー同定を進める
同研究では、シロスタゾールが全てのMCI患者に有用であるという結果は示されなかった。研究グループは今後、シロスタゾールが有効である一群(シロスタゾールレスポンダー)の同定を進め、特定の患者におけるシロスタゾールの抗認知症効果を探求していく予定だという。
また、今回、同研究を完遂したことによって、世界的にも先端的な認知障害の治験即応コホートが確立された。研究グループは、この治験即応コホートを用いる次の医薬品の治験の準備を開始しているという。現在世界各国で開発されつつある、各種の抗認知症薬(候補)の有効性と安全性を日本で治験として検証するにあたって、今回のCOMCIDコホートは大変重要な意義を持つと考えられる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース