膵臓がんの転移、塊となったがん細胞はどのように周囲に広がる?
東京都健康長寿医療センター研究所は12月1日、培養した膵臓がん細胞の塊が崩れて周囲への広がる様子をAIで詳細に解析する方法を開発したと発表した。この研究は、同大研究所の志智優樹研究員、石渡俊行研究部長ら、日本獣医生命科学大学の高橋公正名誉教授、日本医科大学の進士誠一講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Cell and Developmental Biology」電子版に掲載されている。
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膵臓がんは、発見時にはがんが膵臓の周囲に広がり、肝臓や肺などに転移し手術を受けられないことが多い。進行した膵臓がんは抗がん剤で完治させることが難しいため、5年後に生存できる患者は約10%とされている。このため、一刻も早い膵臓がんの早期診断法と、新たな治療法の開発が求められている。
膵臓がんは、膵臓の中でがん細胞が形成した塊(腫瘤)が大きくなると周囲の血管やリンパ管に侵入し、血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器に運ばれ、転移することが知られている。現在までにも、1個1個のがん細胞が周囲へ移動する能力を測定する方法はあるが、ヒトの体の中のように、塊となったがん細胞がどのようにがんの周囲に広がって行くのかを解析する研究は進んでいなかった。
上皮系・間葉系膵臓がんスフェアの形成+広がる過程の画像、AIディープラーニング法で解析
3次元培養で膵臓がん細胞を培養皿で生体内のように立体的に増やすと、浮遊したがんの塊スフェアが作られる。先行研究により、研究グループは、膵臓がん細胞に周囲が平滑な小型のスフェアを作る上皮系の膵臓がんと、周囲がでこぼこでがん細胞が緩やかに集まったスフェアを形成する間葉系の膵臓がんの2種類があることを発見した。
そこで今回、上皮系と間葉系の膵臓がんのスフェアが形成される過程と、スフェアが培養皿に接着して広がって行く過程を、15分ごとに約3日間顕微鏡でタイムラプス撮影しその画像を人工知能(AI)のディープラーニング法を用いて解析した。
スフェア、間葉系は周囲へ広がりやすい/上皮系は周囲へ粘液分泌を繰り返す
上皮系の膵臓がんは、スフェアの面積が急激に減った後で表面の細胞同士が接着して癒合し小型で表面が平滑なスフェアを形成していた。一方、間葉系の膵臓がんのスフェア面積はほとんど変わらず、細胞同士が癒合しないことを確認した。表面がでこぼこでぶどうの房のように見える間葉系の膵臓がんのスフェアは、早くから培養皿に接着してがん細胞が周囲に広がって行くのに対し、表面が平滑な上皮系の膵臓がんは培養皿に接着しにくく周囲への広がりも少ないことがわかった。さらに、上皮系の性質が特に強い膵臓がん細胞のスフェアは、培養プレートに接着せず粘液の産生と分泌を繰り返し、スフェアの大きさも変わらないことが明らかになった。
膵臓がん腫瘤形成抑制の薬剤開発などに期待
今回の研究では、世界で初めてがん細胞の塊のスフェアが形成される過程と、スフェアを形成するがん細胞が周囲へ広がって行く過程を可視化し、撮影した写真をAIで画像解析することに成功した。それにより、間葉系の膵臓がん細胞が形成するスフェアは周囲へ広がりやすいことと、上皮系の膵臓がん細胞には、接着せずスフェアの大きさも変わらないものの、周囲へ粘液を分泌し続けるがん細胞が存在することを明らかにした。同研究成果により、膵臓がん細胞が塊を形成(腫瘤形成)するのを抑制する薬剤の開発や、がんの塊が周囲の組織へ広がり(がん浸潤)、転移するのを抑える薬剤の探索に寄与することが期待される。今回、開発した方法は、膵臓がん以外のがんの浸潤や転移の研究にも応用することが可能であり、がん研究において広範囲な貢献が期待される、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース