特別養護老人ホームでは看護師が医療ケアの主力
岡山大学は12月1日、診療看護師(Nurse Practitioner:NP)の配置は、緊急受診の減少、医療資源の適正利用への寄与、医療費増加の抑制に効果があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の原田奈穂子教授の研究グループと、慶應義塾大学看護医療学部の鈴木美穂教授、長崎医療センター、社会福祉法人ふくじゅの森、東北文化学園大学との共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal for Nurse Practitioners」にオンライン掲載されている。
NPとは、医学の知識と初期医療に関する実践を修了した看護師のこと。従来の看護師よりも侵襲性の高い処置が実施できるだけでなく、患者を全体で捉えられるように疾患に対する基礎知識や治療内容などについても専門的な教育を受けており、患者の病状をタイムリーに捉えて検査や処置を行い、適切な説明を行うことが可能だ。
一方、特別養護老人ホームおいて医師の配置義務はあるものの、常勤していない場合が多く、看護師が医療ケアの主力となっている。
NPの配置で緊急受診減・不必要な入院減・1日あたりの医療費増加を抑制
研究グループは今回、特別養護老人ホームにおける診療看護師の重要性を明らかにするため、2019年10月~2022年9月までの期間、宮城県内の特別養護老人ホームで後方視調査を実施した。
その結果、NPの配置により緊急受診の回数が減少していた。これは、利用者(高齢者)の急な健康問題にNPが迅速に対応できる能力があることを示している。高齢者は一度体調の変化を来すと、予備体力がないことなどから急激に悪化する場合があるため、変化の早期発見と早期対処が重要だが、NPがその働きをしていたことが示された。
また、NPの配置により、不必要な入院を防ぐことによる医療資源の有効利用の可能性が示された。入院は多額の費用がかかり、特に高齢者の場合は本人負担が抑えられている分、保険が賄う割合が多いため、不必要な入院を防ぐことは国全体の医療資源の適正利用につながると考えられる。
さらに、利用者の加齢に伴い要介護度が重度化するにもかかわらず、NPを配置したことにより、1日あたりの医療費の増加が抑えられたという。この結果から、効率的な健康マネジメント能力を持ったNPが、特別養護老人ホームにおけるケアの主力である介護職と連携し、きめ細やかな毎日の生活上のケアをチームで行うことにより、加齢によって利用者が必要とするケアが多くなっても、医療費が抑えられ得ることが明らかになった。
NPの存在が医療経済や介護施設運営に大きな影響を与えることに期待
NPは新しい看護師の役割だが、社会的な知名度が低いのが現状だ。今回の研究により、超高齢社会である日本の特別養護老人ホームにNPが配置されたことによる効果が明らかにされた。
「医療者の働き方改革が求められている中、NPによる医療の質の維持に関するエビデンスを提供することができた。同知見は今後の医療人材の最適化による医療経済面での効果に生かせると考える」と、研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース