口腔細菌叢のバランス異常の予防・改善法は未解明
九州大学は11月28日、1歳6か月児の口腔細菌構成を高精度に同定した結果、すでに成人でみられる口腔細菌叢のバランス異常の兆候が認められることや、その細菌構成バランスが生後1歳半までの食習慣と強く関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院口腔予防医学分野の影山伸哉助教、竹下徹教授、山下喜久名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「mBio」にオンライン掲載されている。
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口腔には膨大な数の細菌が生息している。近年、この口腔細菌群集(口腔細菌叢)のバランス異常が、う蝕(むし歯)や歯周病などの歯科疾患だけでなく、呼吸器や消化器など全身の疾患とも関係することが示唆されている。しかし、そのバランス異常の予防法や改善法については解明されていない。
口腔細菌叢は生後4か月~1歳半の間に急激に成熟、1歳6か月で成人に近づく
研究グループは、口腔細菌叢を健康なバランスに制御・誘導する要因を探索するため、乳幼児期の口腔細菌叢のコホート研究を行っている。今回の研究では、福岡市東区で行われた1歳6か月児健診を訪れた216人の乳児の口腔細菌叢を高精度に決定した。
その結果、1歳6か月児の口腔細菌叢は生後4か月時よりも、母親の細菌叢により類似していることが判明。このことから、口腔細菌叢バランスがこの1年2か月間で急激に成人に近づくことが示唆された。
1歳6か月で口腔細菌叢のバランス異常の兆候を確認
また、一部の1歳6か月児ではすでに成人で観察されるバランス異常の兆候が認められ、特に甘味飲料やお菓子の摂取が多い、フルーツの摂取が少ない、離乳が完了していない、あるいは親と食器を共有している幼児で多く観察されたという。これは、離乳期や離乳完了直後の食習慣の管理によって口腔細菌叢を健康なバランスに制御できる可能性を示唆している。
口腔細菌叢の制御に基づく予防歯科医療につながる可能性
今回の研究成果は、口腔細菌叢の制御に基づく新たな予防歯科医療の確立につながる可能性を秘めていると言える。一方で、口腔細菌叢のバランス異常についてはまだ十分に解明されていないため、今後も慎重な議論が必要だ。また、1歳半時点での口腔細菌叢バランスが今後もそのまま維持されるのか、まだ変化するのかについてはわかっていない。さらに、1歳半時点でのバランス異常が、実際にその後の疾患発症に関わるかも不明だ。
「今回調べられていない他の要因がバランス異常に強く影響する可能性も否定できない。現在、同じ対象者の3歳時点での検体を解析中なので、今後結果を報告したいと思っている」と、研究グループは述べている。
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