小学5年・中学2年の約3万人分の調査データを分析
国立成育医療研究センターは11月28日、小学校5年生(1万6,350人)と中学校2年生(1万4,927人)を対象に、抑うつ症状を示している割合と、学校生活の状況との関連について分析を行い、学校生活に関する質問に対し「楽しみ」と回答している子どもは、抑うつ群に分類される割合が低い傾向にあったことがわかったと発表した。この研究は、同センター研究所社会医学研究部の加藤承彦氏、石塚一枝氏、東京都立大学子ども・若者貧困研究センターの阿部彩氏、近藤天之氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「厚生の指標」に掲載されている。
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国内における小・中高生の不登校・自殺が過去最多という状況の中、子どものメンタルヘルスの不調についての実態把握が求められている。また、児童期・青年期のうつ病は不登校や問題行動、自殺と関連があるだけでなく、成人期におけるうつ病発症のリスクを高めるといった研究結果が国内外で報告されている。
研究グループは今回、東京都、広島県、東京都内の3市区が実施した、「子どもの生活実態調査」を統合したデータを用いて、子どもの抑うつ症状と学校生活に関連があるのかを検討した。同調査では学校生活の「友人関係」「教師との関係」「部活動」「学校の授業」の側面について、楽しみかどうか聞いている。抑うつ症状の評価には、日本語版子ども用抑うつ自己評価尺度(DSRS-C)を用い、この合計点数が16点以上を「抑うつ群」、15点以下を「非抑うつ群」と定義した。
「学校の友人に会うのが楽しみではない」のうち、抑うつ群は小5で63%、中2で75%
その結果、小学5年生では全体の14%(男子13%、女子14%)が、中学2年生では全体の23%(男子20%,女子25%)が抑うつ群に分類された。(これらの数値は、いくつかの自治体のデータを統合して算出しており、解釈に注意が必要。)
学校生活に関する質問との関連を見てみると、「友人や先生に会うことを楽しみにしている」「学校の授業の理解度が高い」などの子どもは、抑うつ症状を示す割合が低いことがわかった。例えば、「学校の友達に会うこと」に関して、「とても楽しみ」から「楽しみではない」の4つの選択肢から該当する回答を選んでもらい、「とても楽しみ」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生9%、中学2年生14%だった。一方、「楽しみではない」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生63%、中学2年生75%だった。
また、「学校の先生に会うこと」に関しても、「とても楽しみ」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生は8%、中学2年生は13%だった。一方、「楽しみではない」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生は29%、中学2年生は36%となり、楽しみにしているほど抑うつ群に分類される割合が低い傾向にあることがわかった。
さらに、「学校の友達に会うことを楽しみにしている」「先生に会うことを楽しみにしている」について、楽しみでないという回答が小5から中2にかけて増加していた。「学校の授業の理解度」についても、小5から中2にかけて、「あまりわからない」「わからないことが多い」「ほとんどわからない」の割合が増えていた。
抑うつ症状を学校生活との関連で検討することが急務
これらの結果から、2つの可能性が考えられた。1つ目は、学校生活の質や充実感の低さが、子どもの抑うつ症状の要因となっている可能性があるということだ。2つ目は、社会経済的に不利な家庭環境など、別の要因が子どもの抑うつ症状を引き起こし、それと同時に学校生活にも影響を与えているということだ。 因果の方向は特定できていないが、実際には1と2が複合的に子どもの生活に影響している可能性も考えられる。
「研究では、因果の方向は明らかにできなかったが、小・中学生の抑うつ症状を学校生活との関連で検討することが急務であることが示唆された。教師だけでなく、養護教諭やスクールカウンセラーなど多職種が関与する体制が必要だと考えられる。また、子どものメンタルヘルスと学校生活との関係をさらに明らかにするためには、介入研究や縦断調査の実施が求められる」と、研究グループは述べている。
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・成育医療研究センター プレスリリース