非ウイルス性の安全なCAR-T細胞作製技術が求められている
大阪公立大学は11月27日、モデル遺伝子と市販の遺伝子導入試薬の複合体の表面に、フェニルアラニンを修飾したデンドリマーを被覆した非ウイルス性の遺伝子デリバリー材料を作製し、T細胞へのモデル遺伝子導入に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の児島千恵准教授と、理学研究科の中瀬生彦教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Macromolecular Biosciences」に掲載されている。
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がんの第4の治療法として、がん免疫療法が注目されている。がん免疫療法では、がん細胞を攻撃するように免疫細胞を教育し、活性化する必要がある。そのため、免疫細胞への生理活性物質のデリバリー技術が重要だ。免疫細胞はその機能によってさまざまな細胞に分類されるが、免疫応答で中心的な役割を果たしているのがT細胞だ。T細胞にがん抗原を特異的に認識できる受容体(CAR)の遺伝子を発現させることで、がんを攻撃できる免疫細胞として機能するCAR-T細胞を作製することができる。CAR-T細胞を用いた治療法は「CAR-T細胞療法」と呼ばれ、新しいがん治療法として期待されている。CAR-T細胞の作製では、T細胞にCAR遺伝子をコードした核酸をデリバリーする必要がある。しかし、これまでT細胞の内部にデリバリーできるマテリアルが開発されておらず、現在は、無毒化・弱毒化したウイルスが用いられている。安全性の観点から、ウイルスを用いず、CAR遺伝子をコードした核酸をT細胞に効率よくデリバリーする技術が求められている。
「デンドリマーナノ粒子」を用いた三元複合体により、T細胞内部へのDNA導入に成功
研究グループでは、先行研究により、T細胞の内部に物質をデリバリーできるデンドリマーナノ粒子を作製してきた。デンドリマーナノ粒子の末端に、疎水性アミノ酸であるフェニルアラニンと負電荷のカルボキシ基を導入することで、リンパ節内のT細胞内部にデリバリーすることができる。今回の研究では、このナノ粒子を用いてT細胞へのDNAのデリバリーを実施した。
DNAはサイズが大きいため、デンドリマーの内部に搭載することができない。そこで、負電荷をもつDNAと正電荷をもつ市販の遺伝子導入試薬(リポフェクタミン)、そして、負電荷をもつフェニルアラニン修飾デンドリマーを混合して三元複合体を作製した。
この三元複合体を、モデルT細胞であるJurkat細胞に添加したところ、DNAとリポフェクタミンを用いて作製した複合体と比較して、遺伝子導入活性の向上が見られた。また、フェニルアラニンを持たない負電荷のデンドリマーを用いて作製した三元複合体を用いた場合は、遺伝子導入活性が大幅に低下した。このことから、フェニルアラニンをもつカルボキシ末端デンドリマーがT細胞へのDNAデリバリー機能の向上に寄与したことがわかった。
今後、デンドリマーナノ粒子の構造最適化で遺伝子導入活性の改良へ
フェニルアラニンをもつカルボキシ末端デンドリマーは、従来法では難しかったT細胞への核酸デリバリーのための非ウイルス性のマテリアルとして有用であると期待される。今後、このデンドリマーナノ粒子の構造を最適化することで、遺伝子導入活性をさらに改良し、ウイルスと同等の遺伝子発現効率を示すような核酸デリバリー技術を構築していきたいと考えている、と研究グループは述べている。
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