40~74歳の日本人約11万人を対象に調査
国立成育医療研究センターは11月21日、日本人の出生体重と成人期後期(40~74歳)の心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)リスク、および各種生活習慣病(高血圧・糖尿病・高脂血症・痛風)との関連を調べる研究を行い、低出生体重による出生は心血管疾患や生活習慣病リスクを増加させることが明らかになったと発表した。この研究は、同センター社会医学研究部の森崎菜穂氏、内分泌・代謝科の吉井啓介氏らの研究グループが国立がん研究センターなどとの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載されている。
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2024年度から「第5次国民健康づくり(健康日本21(第三次))」がスタートする。健康日本21(第二次)の評価では、生活習慣病の一次予防に関連する指標の悪化が指摘された。健康日本21(第三次)では、脳血管疾患・心疾患の年齢調整死亡率の減少、高血圧の改善、糖尿病有病者の増加の抑制も目標に含まれている。
心血管疾患や生活習慣病(高血圧・糖尿病など)のリスク因子として低出生体重が挙げられることは、欧州を中心とした疫学研究で明らかになっていたが、日本人の大規模集団では調査されていなかった。日本では、1980年から2000年にかけて低出生体重児の割合が約2倍に増加し、その後も高止まりしている。1980年に出生した世代は2020年に40歳になり、生活習慣病を発症しやすい成人期後期に差し掛かる。そのため、日本人においても出生体重が小さく生まれた人は、心血管疾患や生活習慣病の発症リスクが高いかを調べる研究が求められていた。そこで、研究グループは、2011~2016年に、次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)対象地域(秋田県、岩手県、茨城県、長野県、高知県、愛媛県、長崎県)に在住で、研究参加に同意した40~74歳の約11万人を対象に調査した。
出生体重3kg台を基準に関連を検討
研究方法は、自分の出生体重と、心血管疾患および、各種生活習慣病(高血圧・糖尿病・高脂血症・痛風)にかかったことがあるかどうかをアンケートで回答してもらう形式とした。分析するにあたり、出生体重を1,500g未満、1,500~2,499g、2,500~2,999g、3,000~3,999g、4,000g以上の5つのグループに分け、それぞれのグループごとに心血管疾患、高血圧、糖尿病、高脂血症、痛風の発生率を算出した。さらに、自己申告による自身の出生体重が3,000~3,999gを基準として、その他の出生体重(1,500g未満、1,500~2,499g、2,500~2,999g、4,000g以上)における、心血管疾患および、各種生活習慣病の有無との関連を検討。その際、地域、出生年、教育歴、高血圧または糖尿病の家族歴、受動喫煙年数、身長、年上の兄弟の有無、初回妊娠時年齢、喫煙習慣、20歳時の体格を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除いた調整有病率比(adjusted prevalence ratio)を算出した。
心血管疾患罹患率、3kg台に比べ2.5kg未満で1.25倍、1.5kg未満で1.76倍高い
その結果、出生体重が小さい人ほど、成人後期に心血管疾患のリスクが高いことがわかった。具体的には、成人期後期の心血管疾患の罹患率は、出生体重が3kg台の人と比べて、低出生体重児(出生体重が2.5kg未満)の人は1.25倍、極低出生体重児(出生体重が1.5kg未満)の人は1.76倍と高いことが判明した。また、心血管疾患のリスクとして知られている高血圧、糖尿病も出生体重が低いほど罹患率が高いことがわかった。
妊娠前・妊娠中の母親の健康と適切なケアも重要
今回の研究で、低出生体重児や極低出生体重児として出生した人は、成人後期に心血管疾患を発症しやすく、また高血圧・糖尿病の生活習慣病を発症しやすいことが、日本人においても明らかになった。今後は、幼少期からの生活習慣への介入など、低出生体重児として生まれた人の成人期の健康を最適化するための研究が必要だ。低出生体重による出生を予防するために、妊娠前・妊娠中の母親の健康と適切なケアも重要だ。「将来の妊娠のための健康管理に関する情報提供を男女問わず推進するなど、プレコンセプションケアに関する体制整備をさらに進めることも求められる」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース