機序不明の進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型、肝移植後に脂肪肝炎を発症する原因は?
東京大学は11月21日、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型(PFIC1)の研究を進める中で、米国において必須栄養素と定められているビタミン様物質「コリン」の吸収経路を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学系研究科の田村隆太郎大学院生、佐分雄祐大学院生(研究当時)、林久允准教授、Axcelead Drug Discovery Partners株式会社の安藤智広主席研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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PFIC1は、原因遺伝子(ATP8B1)が同定されているものの、病態発症の機序が不明で治療法が確立していない希少難病である。研究グループは、子どもの肝臓病の克服を目指した研究開発を進める中で、PFIC1患者が肝移植後に脂肪肝炎を発症する原因を追究した。
病態モデルマウス、腸管上皮細胞でLPC蓄積、血漿・肝臓で遊離型コリンと代謝物減少
研究グループは、PFIC1患者が肝移植後に脂肪肝炎を発症するという事実から、この病態と肝外組織との関係性に着目した。PFIC1の原因遺伝子であるATP8B1は幅広い組織分布を示すことから、種々の細胞種特異的Atp8b1欠損マウスを作出し、その表現型解析を行った。解析の結果、腸管上皮細胞特異的にATP8B1を欠損させたマウス(IEC-KOマウス)が、肝移植後のPFIC1患者と同様に脂肪肝炎を発症することを確認した。
IEC-KOマウスの血漿、肝臓、腸管上皮細胞を対象としたメタボローム解析、リピドーム解析を実施したところ、腸管上皮細胞ではリゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルコリン(LPC)がコントロールマウスに比べて蓄積していること、血漿、肝臓では、遊離型コリンおよびその代謝物群が減少していることがわかった。
腸管上皮のATP8B1欠損でコリン含有脂質の輸送が破綻、コリン補充でマウス脂肪肝炎消失
コリン欠乏は、肝臓内の中性脂肪の蓄積、ひいては脂肪肝炎を引き起こすことが知られている。ATP8B1は細胞膜でリン脂質の外膜から内膜への輸送を担うタンパク質(フリッパーゼ)であることから、研究グループは「ATP8B1が腸管上皮細胞においてコリン含有リゾリン脂質であるLPCの吸収を担っている」と仮説を立てた。この仮説を検証するために、IEC-KOマウスから腸管上皮細胞を採取し、LPCの吸収試験を行った。
その結果、コントロールマウスに比べて、LPCの細胞外膜から内膜への取り込み低下が確認できた。IEC-KOマウスでは、LPCが腸管上皮細胞の外膜に蓄積してしまい、細胞内へ正しく吸収できないと考えられる。一方、遊離コリンの吸収は、IEC-KOマウスにおいても正常だった。そこで、IEC-KOマウスのコリン欠乏を解消するため、遊離コリンを補充した餌を与えたところ、IEC-KOマウスの脂肪肝炎は消失した。PFIC1患者の血漿サンプルを解析した所、IEC-KOマウスと同様に、コリン欠乏が確認されたことから、今回の成果はヒトにも適用可能な知見であることが示唆された。
同経路に関連する脂肪肝炎、コリン補充で治療できる可能性
今回の研究を通じ、ATP8B1を介した腸管でのLPC吸収が、必須栄養素コリンの主要な体内への供給経路であることが明らかになった。この経路の破綻により発症する脂肪肝炎は、コリンの補充により治療できる可能性がある。「これらの検証のため、現在、PFIC1を含むATP8B1の機能低下が関連する疾患を対象にした臨床試験の準備を進めている」と、研究グループは述べている。
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