治療法が十分に確立されていない皮膚血管炎IgAVとCLV
名古屋大学は11月21日、IgA血管炎(IgAV)および皮膚白血球破砕性血管炎(CLV)の患者皮膚において、ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素が活性化していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学講座の江畑葵大学院生、桃原真理子助教、深浦遼大学院生、秋山真志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Academy of Dermatology」オンライン版に掲載されている。
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IgAVとCLVは皮膚の症状を主体とする血管炎であり、皮膚の壊死や潰瘍など、患者のQOLを著しく低下させる症状を長期にわたり呈することがある。一般的にステロイドや免疫抑制剤の内服が全身療法として用いられるが、治療は十分には確立されていない。
IgAV/CLV患者皮膚のJAK活性を調査
JAKはさまざまなサイトカインや増殖因子のシグナル伝達経路に関係する酵素であり、JAK1、JAK2、JAK3およびチロシンキナーゼ(TYK)2という4種類が存在している。JAK阻害薬は、近年さまざまな疾患に適応が通っており、皮膚科領域においてはアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬、乾癬性関節炎の患者に使用されている。
そこで研究グループは今回、IgA血管炎および皮膚白血球破砕性血管炎に罹患した患者の皮膚におけるJAKの活性を調べることで、JAK阻害薬が血管炎の新たな治療選択肢となり得るか否かを評価した。
患者皮膚でJAKが活性化していることを確認
研究では、2016年1月~2022年12月の間に名古屋大学医学部附属病院で皮膚生検を行いIgAVまたはCLVと診断された患者、それぞれ7人、6人を対象とした。同時に重症のアトピー性皮膚炎(AD)に罹患しており、全身療法を行う前の患者5人と、健常者(HC)5人も対照群として調査に組み入れた。各患者と対照群から皮膚を採取し、パラフィン包埋切片を作成。活性化したJAK1(pJAK1)およびJAK2(pJAK2)にそれぞれ特異的に結合する抗体を使用し免疫組織染色を行った。
解析の結果、IgAV患者の皮膚ではpJAK1陽性細胞数が健常者およびCLV患者の皮膚と比較して有意に多いことがわかった(p<.001, p<.05)。pJAK2陽性細胞数についても、健常者およびAD患者と比較して有意に高いことが明らかになった(p<.001, p<.01)。CLV患者においては有意差が認められなかったが、健常者と比較してpJAK1およびpJAK2陽性細胞数が多い傾向を示したという。
今回の研究により、IgA血管炎および皮膚白血球破砕性血管炎に罹患した患者の皮膚でJAKが活性化されていることが判明し、JAK阻害薬が皮膚血管炎に対する新たな治療選択肢となり得ることが示された。「本研究成果で得られた新たな知見をもとに、血管炎治療の新たな選択肢としてのJAK阻害薬の可能性をこれからも検討していく」と、研究グループは述べている。
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