その異常が「繊毛病」につながる一次繊毛、体内時計との関連は?
広島大学は11月14日、「一次繊毛」の長さが「時計遺伝子」により制御され、24時間周期で伸縮することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科解剖学及び発生生物学研究室の中里亮太助教、池上浩司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「EMBO Reports」に掲載されている。
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ヒトの体を構成する細胞には「一次繊毛」と呼ばれる数ミクロンの長さの毛が生えている。一次繊毛は細胞の状態や外部環境に応じて形を変え、細胞の働きを正常に保つ機能を持つとされている。また、一次繊毛の形や機能に異常が生じると「繊毛病」と呼ばれるさまざまな疾患を引き起こす。
「体内時計」とは睡眠・覚醒、ホルモン分泌などの生命現象が概日リズム(24時間周期のリズム)を形成するために働く生体機構である。概日リズムは「時計遺伝子」と呼ばれるタンパク質の合成と分解が約24時間周期で繰り返されることにより形成される。近年、さまざまな生命現象における概日リズムの存在が明らかになっている。例えば、火傷を負った時間帯が夜の場合、昼に火傷を負った場合に比べ治癒までにかかる時間が長いことが報告されている。しかしながら、体内時計がさまざまな生命現象へ概日リズムを与えるメカニズムやその意義については不明な点が多く残っている。
線維芽細胞の一次繊毛は24時間周期で伸縮し、その長さは創傷部位への移動速度と関連
今回研究グループは、時計遺伝子の合成と分解が24時間周期で行われているマウス線維芽細胞では、一次繊毛の長さも24時間周期で伸縮することを培養細胞の実験から発見した。また、マウス実験から脳を構成する神経細胞やグリア細胞における一次繊毛の長さは昼に比べ夜の方が長いことがわかった。
線維芽細胞が傷ついた部位(創傷部位)へ移動する速度を測定する創傷治癒アッセイ(Wound healing assay)を行ったところ、一次繊毛の長さが最も長い時間帯の傷に面した線維芽細胞では一次繊毛の長さが最も短い時間帯に比べ創傷部位への移動速度が低下することを明らかにした。
以上の結果から、一次繊毛の長さは体内時計により制御され24時間で伸縮する概日リズムを形成することが明らかになった。また、創傷治癒のカギとなる線維芽細胞は昼夜で異なる一次繊毛の長さに依存して創傷部位への移動速度が変わることを発見した。
昼と夜の傷で治癒時間が異なる現象、発見した成果で説明可能に
今回の研究では、「一次繊毛」と「体内時計」という一見無関係と思われる2つの生命機構の新たな関係性を発見した。また、昼に負った傷と夜に負った傷では治癒までにかかる時間が異なるという現象に、今回発見した線維芽細胞における一次繊毛の概日リズムが関与すると考えられる。
不眠症・時差ぼけなどの健康障害の理解や予防・治療法開発にもつながる可能性
「今後の解析により一次繊毛が創傷治癒だけでなく、睡眠・覚醒、ホルモン分泌、体温変化など概日リズムを示すさまざまな生命現象においてどのような役割を担うのかが明らかになると期待している。その結果、不眠症、時差ぼけなど体内時計の乱れを原因とするさまざまな健康障害の理解や予防・治療法開発、体内時計の研究知見を取り入れた『時間医療』や『24時間医学』の発展につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果