SLIT実施の20歳未満の子どもと保護者約5万人を調査
国立成育医療研究センターは11月17日、アレルギー性鼻炎の治療法である舌下免疫療法(SLIT)の3年間の治療遵守率の傾向を小児と保護者を対象に調査し、その結果を発表した。この研究は、同センター社会医学研究部臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保祐輔室長と免疫アレルギー・感染研究部アレルギー研究室の森田英明室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」に掲載されている。
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日本を含む多くの国々で、アレルギー性鼻炎の有病率は増加している。アレルギー性鼻炎は、鼻汁・鼻づまり、目や鼻の痒みといった症状だけでなく、喘息の発症リスクの増加、生活の質の低下、学校や職場でのパフォーマンスの低下、医療費の増加などと関連していることが示唆され、適切かつ効果的な治療が不可欠だ。
SLIT治療から最大限の効果を得るためには、少なくとも3年間の継続が必要とされる。欧州の成人を対象としたSLITの治療遵守率に関する研究はいくつかあり、1年目の治療遵守率は66%~80%だったにもかかわらず、3年目は35%まで低下しており、低い治療遵守率が問題となっている。また、日本国内において大規模な研究は行われていなかった。
研究グループは今回、株式会社JMDCとDeSCヘルスケアの提供するレセプトデータを用いて、2015年~2021年の7年間にSLITを開始した、20歳未満の子どもと保護者約5万人のレセプトデータを対象に調査を行った。具体的には、診療開始日や投薬内容などを抽出し、治療遵守率の3年間の推移と、それに関連する要因の分析を行った。研究では、1年のうち75%(274日)以上、薬を処方された人を「治療法を遵守できている」と定義し、その人達の全体に占める割合を「治療遵守率」とした。
治療遵守率、1年目75.6%、2年目61.5%、3年目53.9%
結果、治療遵守率は、1年目で75.6%、2年目で61.5%、3年目で53.9%であり、欧州の先行研究と同等かそれ以上だった。治療遵守率をSLIT製剤別では、「シダキュア」、「ミティキュア」、「アシテア」の順に高い傾向がみられた。年齢別で見ると、小児では10代の遵守率が、保護者では20〜30代の遵守率が低い傾向にあった。
「親子で同時治療」「医療機関の特性」など遵守率向上と関連の要因も明らかに
また、治療遵守率を向上させる要因として、経口抗ヒスタミン薬の併用(遵守率比,1.10[95%信頼区間,1.08〜1.12])、公立病院(遵守率比,1.15[1.10〜1.20])や大学病院(遵守率比,1.18[1.13〜1.24])、診療科(耳鼻科や小児科)、夏季の治療開始(遵守率比,1.11[1.07〜1.14])が関連していることが明らかになった。さらに、20〜39歳の保護者が子どもと一緒に治療を行なった場合、治療遵守率が向上する傾向にあることがわかった(遵守率比,1.13[1.07〜1.20])。
「研究により、小児および保護者における3年間のSLITの治療遵守率と、それに影響を与える要因の一部が明らかになった。今後は、治療遵守率に影響を与える要因の詳細なメカニズムや、SLITの臨床的・医療経済的な効果について、さらなる検証が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース