病態機序不明の間質性膀胱炎(ハンナ型)、診断基準や根治治療も未確立
東京大学医学部附属病院は11月15日、原因不明の難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)において、患者臨床サンプルを用いた包括的なゲノム病理解析を実施、治療標的としてインターフェロン-γ(IFN-γ)を同定するとともに、新規治療法につながる核酸アプタマー(抗マウスIFN-γアプタマー)を創製したと発表した。この研究は、同病院泌尿器科・男性科の秋山佳之講師、久米春喜教授、杏林大学医学部間質性膀胱炎医学講座の本間之夫特任教授、アイオワ大学泌尿器科のLuo Yi教授、タグシクス・バイオ株式会社の堀美幸創薬研究開発部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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間質性膀胱炎(ハンナ型)は、膀胱の粘膜に慢性炎症とびらんが生じ、強い膀胱・尿道痛と頻尿や尿意切迫といった排尿症状により、患者の生活の質を著しく低下させる原因不明の疾患で、特に症状の強い重症型は、国の指定難病となっている。その病態機序はほとんど解明されておらず、標準的な診断基準や根治治療もいまだ確立されていない。国内患者数は約2,000人程度と報告されているが、正確な診断の難しさから、未診断・未治療で困窮している患者が潜在的に多数存在している可能性も指摘されている。間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態機序を解明し、有効な治療法を開発することは臨床泌尿器科学において喫緊の課題の一つだった。
包括的ゲノム病理比較解析、Th1/17型免疫応答関連遺伝子に特徴的な変化を発見
今回、同病院に通院する間質性膀胱炎(ハンナ型)患者25人と、間質性膀胱炎(ハンナ型)と臨床病理学的に類似した病態を呈するBCG誘発性膀胱炎(BCG膀胱内注入によって引き起こされる慢性膀胱炎)患者13人から得られた膀胱組織検体を用いて、包括的なゲノム病理比較解析を行い、間質性膀胱炎(ハンナ型)で特徴的に変化している遺伝子を突き止め、それらが主にTh1/17型免疫応答に関連するものであることを明らかにした。
顕著に発現上昇のIFN-γを標的とした核酸アプタマーを創製、マウスで治療効果を確認
中でも、IFN-γの発現上昇が顕著であったため、研究グループはIFN-γを標的とした薬剤が、間質性膀胱炎(ハンナ型)の有望な治療薬となる可能性があると考えた。そこで、タグシクス・バイオ株式会社の保有する独自の人工核酸技術を用いて、IFN-γに高親和性・特異性を有する核酸アプタマー(抗マウスIFN-γアプタマー)を創製し、間質性膀胱炎(ハンナ型)疾患モデルマウスに膀胱内投与した結果、膀胱組織の炎症が著明に改善し、炎症反応に関与する遺伝子の発現も低下した。さらに、骨盤部の疼痛や頻尿も大きく改善し、この治療の有効性が示された。
臨床応用へ向け各種GLP安全性試験を実施予定
上述のように間質性膀胱炎(ハンナ型)は根治治療がなく治療法も限られているため、患者のみならず医療者をも困窮させる極めて難しい疾患である。世界中で新規治療薬の開発競争が繰り広げられているが、いまだ大きな成果は上がっていない。今回の研究では、間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態に、IFN-γが中心的な役割を果たしていることを突き止め、抗IFN-γアプタマーの膀胱内治療が疾患モデル動物において高い有効性を示した。「研究グループは現在、抗ヒトIFN-γアプタマー(コード番号:TAGX-0003)の臨床応用へ向けた開発を推進しており、各種GLP安全性試験の実施を予定している」と、研究グループは述べている。
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