ほぼ100%の妊娠女性の尿から検出される「ネオニコチノイド系農薬等」
国立環境研究所は11月14日、母親の妊娠中の尿中ネオニコチノイド系殺虫剤を含む9種の浸透移行性殺虫剤(ネオニコチノイド系農薬等)およびその代謝物の濃度と、4歳までの子どもの発達指標(保護者が記載した質問票)との関連について解析した結果を発表した。この研究は、同研究所エコチル調査コアセンターの西浜特別研究員(現:筑波大学助教)、中山祥祠次長ら、名古屋市立大学大学院医学研究科の研究グループによるもの。研究成果は、「Environment International」に掲載されている。
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
多くの国で使用されているネオニコチノイド系農薬は、使用できる作物の幅が広く、害虫に対する優れた防除効果がある。そのため、特に日本では出荷量がここ約20年で2倍以上に増えている。ネオニコチノイド系農薬は、無脊椎動物である昆虫の神経伝達を阻害することで殺虫効果を発揮する。脊椎動物であるマウスなどの動物実験により、無脊椎動物だけではなく脊椎動物に対しても神経毒性があることが報告されている。
ネオニコチノイド系農薬の主な摂取源は、果物や野菜と報告されている。妊娠女性を対象とした尿中ネオニコチノイド農薬等濃度の調査によると、ほぼ100%の妊娠女性からネオニコチノイド系農薬等が検出されている。一方、これまでの妊娠中のネオニコチノイド系農薬等のばく露と子どもの発達との関連についての研究は、農薬のばく露を質問票で評価していた(例:使用頻度など)。
妊娠中ばく露と4歳までの子の発達、質問紙ではなく尿を用いて定量的に解析
今回の研究では、エコチル調査に参加する母親から妊娠中に採取した尿を用いて、ネオニコチノイド系農薬等ばく露を定量的に評価し、子どもの4歳までの発達との関連を調べた。
データを解析対象は、エコチル調査で得られたデータのうち、妊娠初期(妊娠22週未満)と中後期(妊娠23週以降)の尿試料があり、妊娠中の体重が極端に軽いあるいは重い場合(平均値から標準偏差5以内)、かつ、双子以上の多胎で生まれた子どもを除き、生後6か月から4歳までの発達指標データがある8,538組の母子。母親の尿に含まれるネオニコチノイド系農薬等およびそれらの代謝物の濃度と、日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問票から得られた子どもの発達指標との関連について、母親の妊娠前BMIと食品摂取量(茶、米、豆類、いも類、野菜類、果物類)を考慮して解析した。また、母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度から推定一日摂取量を算出し、食品安全委員会が示す許容一日摂取量と比較した。
今回の研究では、尿中農薬等濃度と子の発達指標に関連見られず
研究の結果、母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度と子どもの発達指標との間に関連は見られなかった。また、ネオニコチノイド系農薬等の推定一日摂取量が許容一日摂取量を超える母親はいなかった。
今回の研究の限界として、子どもの発達指標の調査に用いられた質問票は、発達全体の遅れをスクリーニングするものであり、ネオニコチノイド系農薬等が持つ神経毒性を直接評価できていない可能性がある。同研究では、ネオニコチノイド系農薬等ばく露と子どもの発達との間に関連は見られなかったが、1つの疫学調査の結果だけでは十分な証拠とは言えない。そのため、さらなる調査の積み重ねが必要だ、と研究グループは述べている。
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・国立環境研究所 プレスリリース