どのような生活習慣が労働パフォーマンスに関係するのか
筑波大学は11月15日、日本の企業従業員の労働パフォーマンスとさまざまな生活習慣の関係について分析した結果、労働パフォーマンス低下には男女とも睡眠による休息の不足が最も強く関係し、次いで運動習慣の欠如、就寝前の夕食摂取が関係することがわかったと発表した。この研究は、同大体育系の武田文教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Public Health」に掲載されている。
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日本では、超少子高齢化の進行によって生産年齢人口は減少し、労働力の減少や生産性の低下が大きな課題となっている。企業では、労働者の健康保持を通して労働パフォーマンスの改善を図る「健康経営」の一環として、喫煙対策や運動の奨励、食生活支援など、疾病予防の観点から生活習慣の改善に関するさまざまな取り組みが行われている。しかし、日本の企業従業員において実際にどのような生活習慣が労働パフォーマンスに関係するのか、またそれらに性差があるのかについては、これまで十分に明らかになっていなかった。
約1万2,000人分の健診データ、診療報酬明細などを解析
研究グループは今回、2016年の日本の企業の従業員(21~69歳)の特定健康診査と診療報酬明細書のデータおよび労働パフォーマンスの調査データを用い、1万2,476人分について、生活習慣と労働パフォーマンスとの関係を性別に分析した。
具体的には、生活習慣について、特定健康診査の標準的な質問票のデータから生活習慣11項目(喫煙、運動習慣、身体活動、歩行速度、就寝前の夕食、夕食後の間食、朝食の欠食、食べる速度、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、睡眠による休息)についての回答結果を用いた。労働パフォーマンスについては、出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下を表す「プレゼンティーズム」の指標である「世界保健機関健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版」(WHO-HPQ)の調査データから、HPQ得点を算出した。また受療状況について、診療報酬明細書のデータから高血圧、糖尿病、脂質異常症、悪性新生物、筋骨格系疾患、精神疾患、歯科疾患に関して治療・処置・薬剤投与いずれかの有無を基に受療を判定。男女別に、HPQ得点を目的変数、生活習慣11項目を説明変数(基準カテゴリ:良好な生活習慣)、属性(年齢、職種、役職)および受療状況を調整変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した。
パフォーマンス低下と関連の生活習慣は男性6つ、女性4つ
その結果、男性は、睡眠による休息の不足(β=-0.108)、運動習慣の欠如(β=-0.052)、歩行速度(β=-0.051)、喫煙(β=-0.035)、就寝前の夕食(β=-0.031)、朝食の欠食(β=-0.030)がHPQ得点と関連していた。女性は、睡眠による休息の不足(β=-0.076)、就寝前の夕食(β=-0.053)、食べる速度(β=-0.032)、運動習慣の欠如(β=-0.028)がHPQ得点と関連していた。
健康教育や職場環境の整備、性差を踏まえた支援策の検討を
研究から、日本の企業従業員の労働パフォーマンス低下には睡眠による休息の不足が最も強く関係し、次いで運動習慣の欠如、就寝前の夕食が関係することがわかった。さらに、労働パフォーマンスの低下に関連する生活習慣には性差があることもわかった。「企業従業員の労働パフォーマンス改善に向けた生活習慣改善の取り組みとしては、男女ともに睡眠の改善、運動習慣の定着、適切な時間の夕食摂取に関する健康教育や職場環境の整備等を行うことが重要であり、また性差を踏まえた支援策の検討も望まれる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL