皮質骨微細構造の評価法は十分に確立されていなかった
北海道大学は11月14日、AI(人工知能)による形態認識および解析システムと、GIS(地理情報システム)を利用した解析対象物のマッピング法を確立し、骨粗しょう症治療薬「PTH(副甲状腺ホルモン)製剤」による、皮質骨への薬理学的作用を解明したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院の飯村忠浩教授と、同大大学院歯学院博士課程4年の星(沼端)麻里絵氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Bone Reports」にオンライン掲載されている。
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骨粗しょう症は、進行すると腰椎や大腿骨頸部などの体を支える重要な部位に骨折を引き起こすことがあるため、要介護人口増加の主要な原因となっている。したがって、骨粗しょう症治療薬の効果を詳細に解明する研究は非常に重要な課題だ。
これまで骨粗しょう症治療薬の効果は主に骨の内部の海綿骨の評価を中心に行われていた。しかし、骨折の多くは骨の外壁である皮質骨が薄く弱くなった部位で起こるとされ、海綿骨だけでなく皮質骨の微細構造の評価方法が必要だった。皮質骨の微細構造の評価方法が十分に確立されてこなかった理由として、一般的な小型実験動物であるマウスやラットの皮質骨の微細構造や、骨が作り替えられるサイクルがヒトとは大きく異なり、解析対象として扱いづらかったことが原因として考えられる。
そこで研究グループは今回、皮質骨の微細構造や、その作り替えられるサイクルがヒトによく類似した実験動物としてイヌを用い、骨粗しょう症治療薬であるPTH製剤「テリパラチド」を投与した際に皮質骨に生じる微細構造の変化について詳細に検討した。さらに、同研究では、皮質骨の微細構造の解析にはAIディープラーニングとGISを統合した新たな形態計測法と、薬理効果解析法の確立にも取り組んだ。
連日高用量投与群は週1回高用量投与群と比較し、ハバース管の数・面積が有意に増大
研究では、8~9か月齢のオスのビーグル犬に、テリパラチドを「連日低用量・連日高用量・週1回低用量・週1回高用量」の4グループに分けて投与し、対照群には生理食塩水を連日投与した。それぞれ9か月間にわたり投与を継続して投与終了後に肋骨を採取し、広視野高分解能顕微鏡を用いた網羅的イメージングにより、皮質骨の微細構造を観察した。
皮質骨の中では神経血管束の通り道であるハバース管を中心に骨のリモデリングが行われるため、ハバース管の組織学的特徴をAIディープラーニングで機械学習させた。ハバース管の解析を行ったところ、連日高用量投与群ではハバース管の平均面積・総面積が最も増加していることが判明した。次に、隣接するオステオンに浸食するまで拡大したハバース管を吸収孔と定義し、解析を行った。その結果、連日高用量投与群では週1回高用量投与群と比較して、その数と面積が有意に増大していることが明らかになった。
AIで画像認識しGISを適用、吸収孔数の増加は複数のハバース管の癒合が原因と確認
吸収孔の数が増加したのは複数のハバース管の癒合が原因と考え、それを確かめるために皮質骨全体のハバース管をAIで認識した画像にGISを適用し、ハバース管の密度とハバース管面積比のマッピング表示を行った。マッピング表示により、ハバース管密度が減少した領域とハバース管が拡大した領域が一致する傾向にあるということが客観的に示された。
新規解析手法の発展で、客観的な形態計測法・薬理学的効果評価法の進展に期待
今回の研究により、AIディープラーニングと地理情報システムを統合して応用した、皮質骨への新規薬理効果解析法が確立された。さらに、テリパラチドの皮質骨への薬理作用が解明された。
「本研究および解析手法のさらなる発展により、観察者バイアスを極力排除した客観的な形態計測法や、薬理学的効果評価法の進化が期待される」と、研究グループは述べている。
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